勇介はマグカップに顔を埋め、その薫りを肺にまで深く吸い込んだ。
からだが徐々に目覚めてゆく。
静かで心地いい目覚めだ。
「ねぇ、勇介。女遊びもいいけど、もう少し相手を選んだら?」
長い髪をクリップでまとめながら、ドレッサー越しに瑛子が言った。
「え?」
「あんまり真面目な子を泣かせちゃ、あんたも寝覚めが悪いでしょ」
「…会ったのか」
「さぁ、誰のこと?」
「真中美里のことだ!」
自分でも思いがけない大声が出た。
「あぁ、びっくりした。さぁね。名前までいちいち覚えちゃいないわ」
まだコーヒーの薫りにまどろんでいた脳が、自ら出した大きな声でようやく動き出した。
末端の神経にまで感覚が行き渡ると、じんわり不快感が押し寄せる。
