「水でも飲む?」
「いや、コーヒーをもらう」
勇介は瑛子の立てるコーヒーが好きだ。
部屋中に立ち込める香ばしい薫りに、まず脳が痺れる。
一口含むと、まろやかなコクと苦味がフワッと広がる。
そのまま熱い液体が食道を通り、みぞおちに流れていく触感を存分に愉しんだ後、程よい酸味だけが微かに舌に残る。
流行りのカフェなんかで飲むよりずっと旨い。
そのくせ、瑛子は料理はしない。
かれこれもう七年ものつき合いになるが、瑛子の手料理に授かったことは一度たりともない。
スーパーにも行かない。
全部コンビニで済ませる。
それは勇介にとって好都合だった。
女房気取りで甲斐甲斐しく味噌汁でも作られていたら、とうに逃げ出していたに違いない。
