どこか懐かしい深く豊かな薫りが、まだ眠っている勇介の鼻孔をくすぐる。



何て心地いいんだろう。



頭の後ろの方で女の声がした。



「起こしちゃった?」



「あ…いや」



まだ焦点の合っていない勇介の目に、紫の物体がブラブラとちらついている。



目を凝らして見ると、鴨居の出っ張りにヒョイと釣り下げられたサテンのワンピースだった。



片方の肩がダラリと垂れ下がり、今にもハンガーからずれ落ちそうになっている。



暗闇では輝いたであろうその色も、朝の光の中では色褪せてどこか所在なげだ。



西日に灼け、赤茶けた畳の上には、白雪姫の継母が呪いをかける魔法の鏡のような真っ白いドレッサーが我が物顔で鎮座している。



せいぜいアンティークのレプリカか何かだろうが、どっちにしろこんな木造モルタルの安アパートには不似合いの代物だ。