外階段の手前でいったん引き返そうとした時、一階の奥のドアが開き、すさんだ印象の中年男がふらりと出てきた。
悪態を吐き、酒の匂いをプンプンさせて近寄ってくる。
美里は大声を上げたい衝動を必死で抑え、その場を毅然とやり過ごした。
相手にされないとわかると、男は諦めたように、美里の前を遠巻きに通り過ぎた。
緊張が解けると、急に心細くなった。
美里はガクガク震える足で階段を駆け昇った。
ミュールのかかとがカンカンカンと甲高い音を響かせる。
階段の隙間が広くて何度も躓きそうになったが、立ち止まっている余裕はない。
井ノ原くん、お願い、いて!
すがるような思いでドアをドンドン叩いた。
酔っ払いに出くわしたことで、ついさっきまで感じていた引け目のようなものは跡形もなく消えていた。
