一瞬の出来事だった。
からだの力が抜けていく。
その場に呆然と立ちつくす美里。
勇介はそんな美里の顎をくいっと指ですくい上げ、目を細めた。
「おまえが…好きだ」
そして、二回目のキス。
静かに目を閉じた美里の中で、遠くに聴こえる祭囃子、心配しているだろう雪絵のこと、見えなくなるまで手を振っていた嬉しそうな母の姿、東京であったいろいろな出来事が一つ一つ浮かんでは、大した意味もないように消えてゆく。
やがて勇介の唇から、温かい舌が入り込んできた。
「ん、んぅ…っ…」
美里はふいにからだを硬直させたが、それは虚しい抵抗だった。
次の瞬間には、無意識のうちにそれを迎え入れてる自分がいた。
もう何も考えられない。
ただ、心とからだの命じるままに、こうして勇介と一つに繋がっていること。
そのことが、世界で一番大切な意味を持っているような気がしていた。