その瞬間、美里は14歳の少女になっていた。
放課後の校庭にこだまするブラスバンドの物悲しい響き。
校舎に沈んでいくオレンジ色の夕日。
ザックザックと近づいてくるスパイクの足音。
ふと見上げると、目の前にいるのは…
野球部のピッチャーで、背が高くて、悲しいくらいきれいな目をしていて…
「井ノ原く~ん!」
「おおっ!勇介」
在りし日のエースピッチャーの思いがけない登場に、仲間内の間で口々に感嘆と羨望のウェイブが起こる。
そんなどよめきとは別の次元で、美里は勇介の視線が自分だけに降り注がれていることを確信していた。
やがて、美里の瞳も、強く強く勇介に引き寄せられていく。
「井ノ原くん…」
勇介に見すくめられ、美里の目が、胸が、からだが、次第に熱を帯びていく。
