「そんなこと言ったかな」
「言ってた。俺は覚えてる」
「……あんなの、冗談に決まってるじゃん」
「冗談には聞こえなかったけど。本気な顔してた」
「っ、してないよ!」
心が荒波のように揺れて、思いがけず声量が大きくなってしまった。
そのことに、ハッと気づいて慌てて声のトーンを落とす。
「あれは、もうやめたの」
「なんで?」
「……四年制大学に進学する方が、将来のためになると思ったから」
自分で発したはずの言葉が、どうにもしっくりこなくて、それを悟られないようにもごもごと口を動かした。
果たして、私が話しているのは、ほんとうに私の言葉なのだろうか。
『服飾? そんなの、やろうと思えば卒業後してからでも勉強できるでしょ』
『何のために高い学費を出して、私立の高校に通わせていると思ってるんだ。お前のことを考えて、言ってるんだよ』
『だいたい、お前は見通しが甘い。そういう世界で食っていけるのは、限られたほんのわずかな人間だけなんだぞ』
心の奥の引き出しにしまいこんだ両親の言葉たちは、そうやってしまいこんでいるうちに、もとから私の持ち物だったみたいに、体に馴染んでしまった。
「ふうん」
自分から聞いてきたくせに、中原は拍子抜けるほど興味なさげな反応をする。
それっきり、進路の話題が蒸し返されることもなく、ほっと安堵すると同時に、心はまだざわめいている。
どうして、中原が私の進路なんか気にしているんだろう。中原には全く関係ないのに。
そんなことを考えながら目を伏せて、次に瞼を開けたときには、手に持っていた花火は光を失っていた。
「これで最後」
「え、もう?」
「うん」
中原が、ふたつ手に持った線香花火の片方を私に手渡した。あんなに大量にあったのに、いつのまにかもう最後の二本らしい。
西の空に滲んでいたはずのオレンジはもう跡形もない。
濃紺一色に塗り替えられた空を見上げて、時間が体感よりもずっと速く流れていることを実感する。



