「親父がさ、消えたんだよ。リストラされたらしくてさ、家帰ってきたんだけど、うちに居場所がないと思ったのか朝起きたらいなくなってた。いい歳して家出なんて、ウケるだろ」
肩をすくめて、中原はけらけら笑いながら、いつものように茶化した口調であっさりと真相を暴いていく。
「この前、家族会議してさ。もうこれ以上、私立に通う学費も、下宿代も、払える金はうちにはないって結論出た」
ひやりと何か冷たいものが私の心臓を撫でたような感覚になる。私たちを包む空気が二度くらい下がった気がする。
今はまだ暑い、夏の夜なのに。
「二学期から地元の公立に通うよ」
中原が紡ぐ言葉を、私はドラマでも見ているような非現実的な感覚で聞いていた。
ねえ、嘘でしょう。
嘘じゃなかったら、なんなの。
「それ……、本気で言ってるの」
「仕方ねえだろ。ほんとのことなんだから」
ねえ、中原。
あんた自分が何言ってるかわかってるの。



