麗しき月は愛に染まる



 ――月……っ。


 荒い息でわたしの名前を呼びながら首元に顔を埋める王雅。その瞬間首にチクリと小さな刺激が走った記憶が蘇ってくる。



「あ……」



 思わず、声が洩れた。

 あんまり思い出したくない記憶。

 昨夜も王雅に求められ、逆らうことなく受け入れた。


 そこに愛がないとわかっている。

 このキスマークに何の意味もない。ただの戯れ。



「こーゆーのはちゃんと隠してもらわねえと困るんだけど」



 降ってきた声は地を這うように低く、わたしを見下ろす彼の瞳は深い海の底のように暗い。


 もちろん光なんて宿っていなかった。

 深い漆黒と目が合ってぞくり、と背筋が伸びる。

 火門会の人間なんて比にならないくらいの威圧感。


 さすが神の子と呼ばれているだけあるな。