幸い、アパートに火が回ることはなく、ボヤ騒ぎで済んだのだけど。
自分の身に起こった、俄か(にわか)に信じがたい出来事に身体の震えが止まらなかった。
「すみません。ちょっと話を訊かせてもらってもいいですか?」
大家さんと智美の間を縫うように、二人組の警察官が部屋を訪れた。
一人は父親くらいの年代の少し太めの警察官。
もう一人は、自分とあまり年が変わらなそうな若い警察官。
警察官を目の前にして、再び、事の重大さを思い知った。
「最近、何か変わったことや不審なことはありませんでしたか?」
「いえ、特には……」
「どんな些細なことでもいいんですよ。何かしら思い当たることはありませんか?」
警察の事情聴取でも、涙を流してばかりで、何を訊かれたのか詳しく思い出せない。
ただ、見えない存在に恐怖が増していくばかりで――。

