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皆がそれぞれの場所に帰って、私たちも家路に着いた。
何だか、久しぶりにウィルとゆっくり過ごせる気がする。
「あんたのとこは、すごい家族ですね」
「……そうね、確かに」
ウィルは――いつか、そんな話も聞けるだろうか。
もしかしたら、彼が詳しく話したくなる日は来ないかもしれないけれど。
「忘れられたらよかったんですけどね。残念ながら、酷すぎて忘れられない。それをあんたに負わせる気は、今のところありません」
「……うん」
それでも構わない。
私のことを思って言わないでいるのだろうし、辛い思いをして記憶を掘りおこすこともない。
そしてそれは、未だにそんなに深くのところに埋まってはくれないのだ。
「それより、いいことを考えた方がいい。俺にそんなことを思わせるなんて……そのいいことを与えてくれるなんて、あんたは大した姫さんだ」
「特に何もした覚えないけど……そう思ってくれたならよかった」
この世の中、日々に希望を感じるのは難しいと思う。
何不自由ない私ですらそうだったのだから、彼の生い立ちならどれほどのものか。
悲しくなるのが申し訳ないくらい切なくて、ウィルの胸に頰を寄せた。
「あんたの幸福の竜はね。自分の幸せが何かだなんて、そんなものが存在することすら知らなかったんです。……一度知ってしまったら、もう戻れないんですよ」
「戻らないわよ」
ウィルが幸福の竜なら、ううん、そうであってもなくても。
私が彼を幸せにするし、私も彼といれば幸せになれる。
「だから、俺は一生あんたのものだ。……本当に力があったらすべて捧げて……俺を好きに使ってくれって言えるんですけどね」
「……な、何それ。いいわよ、そんな……」
「え、そう言わないでくださいよ。竜の子としてのご利益がない分、俺はあんたなら何でもしてあげるのに。本当にしてほしいことないんですか? 本当に、俺に何もしてほしくない……? 」
(話が変な方向に……してほしいことが特にないのと、何もしてほしくないのとは意味が全然違うような。そもそも、何とはなに……)
「〜〜っ、ウィル……! 」
プッと吹き出されて、ほっぺたを潰していた胸を殴る。
「懲りませんね、あんたは。……こういうやり取り、いつかもやったな」
つい最近のことなのに、ひどく遠い日のように感じる。
あの頃はまだ、ウィルから好かれているなんて思ってもいなかった。
「……懲りないし、慣れないわよ。悪かった……」
「……悪くありませんよ。何も」
これも、以前にあった。
でも、こんなふうに唇で塞がれるようになるなんて。
「幸福の竜が聞いて呆れるくらい、あんたが俺にくれるものの方が遥かに多くて、そのどれも大きい。……だから」
その声も、その視線も。
元々優しかったものが熱を帯び、甘ったるさを増す。
ディアーナが言ったのはこういうことかと思いながら、ウィルの腕で固まるしかなかった。
「俺は、絶対にあんたを他の男に託したりしません。必ず俺が守って、幸せにする」
「……ウィルがいなきゃダメなんだからね。私の……」
――大好きな幸福の竜さん。
「分かってる。あんたがもっと俺を幸せにしてくれるのも期待してるから……俺と一緒に幸せになってくれ」
――愛してる。俺だけの姫さん。
ほら、触れたいんだろというように、ウィルの手が誘いその肌と目元に私の指先が置かれる。
それだけで、私の心は喜びに震え、何とも言えない幸福感が全身へと広がっていく。
そう、それだけ。
それだけでこんなにも幸せだから、この先何があったってこの人と進んでいく。
そういう意味では確かに、彼は私の、私だけの幸福の竜の子だ。
【お荷物令嬢と幸せな竜の子・おわり】



