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遅れてやってきた義弟は、ディアーナ相手だと怒るに怒れず、何とも言えない顔をしている。
「よくもまあ、こんな面倒なことを思いついたもんだ」
「義父に言ってください。任された僕だって、大変だったんですから。貴方にとっても、義理の父になるのでしょう」
わざとらしく私とウィルの顔を見比べて、意地悪に笑う。
(……そんなにバレバレなのかしら)
「言いたいことは山ほどあるさ。苦情も感謝も、報告もな」
そんな揶揄など効かないというように、ウィルは顔に掛かっていた私の髪を指先でそっと払う。
「そうですか。お似合いですよ」
「知ってる。で、その借金の内訳は何だ。本当にそんなものあるのか」
ウィルの言葉遣いに一瞬眉を顰めたが、ミゲルは肩を竦めて言った。
「ありますよ」
「何に使ったの? 本当は知ってるんでしょう。もうこうなったら教え……」
掴みがかる勢いの私をしっしっと払い、ディアーナのジトッとした視線を受け、咳払いをして続けた。
「というか、これから必要になるんじゃないですか。お二人の未来の為に。ここの始動の為に」
「……そんなことまで見据えていたの? 」
「あなたのお父上は、ですよ。もちろん、お二人がどう転ぶかなんて分かりませんし、そんなのお二人の勝手ですが。結果的に、ジェラルド様の希望は通りました。それで、あなたが幸せならね」
相変わらず、そのせせら笑いはムカつくけれど。
「あなたのお父上」という表現は、少しいつもより柔らかい気がした。
「ユリ姉さま。私ね、車の中でいろいろ考えていたんです。でも、姉さまを見て安心しましたし……やっぱり、私は姉さまが羨ましい」
「え!? そんな、ディアーナが私を羨む要素がどこに……」
私こそ、ディアーナは妹でありながら憧れを抱くことすらできないくらい、どこか遠い存在だったのに。
「姉さまは否定するかもしれませんが、姉さまだってそれなりに誘いはあったはず。でも、けして靡いたりしない強さが美しかった。そんな姉さまを見るたび、自分の弱さが嫌いでした」
「……そんな……」
そんな芯のある行動じゃなかった。
ただ、壁の花になる勇気すらなくて、逃げただけだった。でも――……。
「それに! どうして教えてくださらなかったのですか? いいえ、聞かなくても分かりますけれど。それでも、姉妹で恋愛話したかったのに!! 」
「え、いや、連絡取れなかったから……」
私に否定させない為だろう、急に話題を換えて私の両肩を揺さぶる。
「一目見て分かったんです。当然ですわ! ウィル殿の姉さまをご覧になる視線と言ったら……! 」
――でも、やっぱり。私は好きな人といたい。
「愛しさが溢れ返って、初めてお会いした私にも分かります。……よかった、ユリ姉さま」
「……うん。ありがとう」
私は、ディアーナが結婚した時にこんなに純粋に喜べたかな。
たぶん――妬ましさや悲しみも大きかったと思う。
「でも、これからは一緒にやれますものね。お父さまの借金なら、私にも関係ありますわ。何より、ここを見て、姉さまを見て決めました。私にも、力にならせてください」
「ありがとう。すごく、心強い」
それも、きっと分かったうえで言葉にさせないでくれた。
(こういうところよね)
私が、彼女を本当のお姫様だと思う理由。



