お荷物令嬢と幸せな竜の子





車輪が急ブレーキを踏む音が響き、和やかな雰囲気が一気にピリッと張り詰める。


「……ユリ」


私がハッとした時には既にウィルの背中が前にあり、側ではサミュエルが子どもたちを後ろ手に庇っていた。


「まさか、竜が馬車で駆けつけるとでも? 」

「人型になってか? くだらないことを言うな。相手が誰であれ、守るだけだ」

「まだ、敵だと決まったわけじゃないと思うんだけど……」


軽口を叩く彼らを見て、幾分落ち着きを取り戻して口を出すと、振り向いた二人同時に溜息を吐かれた。


(……敵が、あんなに優雅に登場するのかしら……って、あ……!! )


この場所には、ちょっと似合わない装い。
それを不審がる前に、懐かしさが込み上げてくる。


「……っ、ディアーナ……!? 」

「ユリ姉さまー!! よかった、いらっしゃって……!! 」


妹が駆けてくる。
飛び出すのを慌てて制止しようとするお付きの者を振り払って、ふわりとしたドレスが汚れるのも気にせずに、一直線に。


「……はぁ……」


溜息を吐いて屈み込むウィルに声を掛ける間もなく、ディアーナが突進してきた。


「どうして、ここに……」

「ミゲルを問い詰めたんです。理由を聞いても、君には危ないからの一点張りで。そんな危険な場所に姉さまを追いやったのかって怒ったのですけど、頑なに教えてもらえず……離婚の危機を乗り越えて、今やっとお会いできたのですわ」

「……そ、そう……」


弱り顔のミゲルを想像して、同情するやら胸がスッとするやら。
天使から離婚すると詰め寄られては、さすがのミゲルも降参するしかないだろう。


「……何もできないと思われているのが嫌で。愛情だとは分かっていても、いきなり姉さまがいなくなったのは堪えましたわ」

「……ごめんね」


ディアーナはもう知ってしまったのかな。
私が、お父様の子どもではないということを。


「あまりにムカついたので、ミゲルには黙って来ました。まあ、すぐに追いつくでしょうけど、二度とこんなことがあっては困りますもの」


紛うことなき、プリンセスの微笑。
いつの間にか立ち上がったウィルが、ポツリと漏らした。


「……悩むまでもなく、案外似てるんじゃないですか? 姫さん姉妹は」


いい意味ではないのは、分かっているけれど。


「……? 当たり前ではないですか。姉妹ですもの! 」


その一言で、残っていた不安も消えてしまった。