お荷物令嬢と幸せな竜の子








それから、いろんなことが起きた。


「……っ、こら離せ。私は保父でないんですよ。しかも、こっちは普通の人間の子ではないですか。どうして、私がこんなことを……」


まず、サミュエルのご家族が「竜騎士の子孫が建てた村」へと移り住んできた。


「そうか。私には、“普通の” 人の子の方が珍しいがな」


人数が増えたことにより、さすがにステフのところだけでは居住スペースが手狭になったので、じょじょに年長さんから村に降りてきたのだ。
ステフがニヤリと笑ったとおり、当初は双方戸惑っていたものの、今ではすっかり仲良しだ。
ウィルや私も一緒に遊んだりしているが、サミュエルも結構な人気だ。


『捧げられる娘も、捧げる家族もこれ以上見たくないと言うんですよ。……そんな、私は……』


呆然と呟くサミュエルも、行き場のない怒りや悔しさ、申し訳なさを浮かべるご家族の顔も、私はもう見たくない。
たとえ劇的な解決が今のところ見込めなくたって、サミュエルに纏わりつく子どもを見ている方が絶対にいいに決まっている。


「なに、ニヤニヤしてるんですか」


意地悪に言われて何かを言い返そうとしたのに、続きがあると耳元に唇を寄せられ、かあっと熱が集まる。


「他の男を見つめて、微笑まないでくださいね。あんたは、俺の姫さんなんだから」


(〜〜っ、子どもの前……! どころか、子どもにも大人にも囲まれてるんですけど……! )


「ニヤニヤもするわよ。だって、ほぼ思い通り上手くいってるんだもの」


さすがは竜騎士の子孫が建てた……かもしれない村だ。
住民が増えたと村長は喜んでいるらしいし、裏稼業の人も多いだけあって、悪い竜など攻めてくるなら攻めてみろと意気込んでいる。
まあそこは、ステフがこの子たちを迎え入れてくれるならという条件で、できる限りの庇護を約束してくれたのが大きい。
竜に守られているというのは、人間からするとやはり何となく安心する。
ウィルは、「そんなもの神頼みくらい当てになりませんよ」なんて、盛り上がる村民をよそに私に耳打ちしてきたけれど。
こういうものはステフが宣言したこと自体に意味があるし、それならばと皆が動けばそれからまた連鎖を生むものだ。
そういえば、サミュエルの襲撃未遂があった夜、竜に守られる夢を見たと言ったら、なぜかウィルに爆笑された。


「結局、お父様の借金が何だったのかは分からずじまいね」

「そんなもの、存在しなかったんですよ。忘れましょ」


父が帰ってこないことを受け、危険だと思ったミゲルの嘘。
確かに、あんな途方もない金額を返すのは現実味がないと、実際に働いてみて思い知らされた。
でも、もう一つの条件である「幸福の竜の鱗」は――……。


「何ですか。鱗を坊っちゃんにあげてほしい、なんてお願いは聞きませんよ」

「そ、そんなこと言わないわよ。でも、あれって何だったんだろうと思って」


つまり、ウィルの正体を知っていて……?
ウィルが私を信用して――好きになってくれたら、屋敷に戻ってもいいってこと……?


「……帰りたいですか」

「ううん。少なくとも、私のいないあの屋敷に危険はないことは分かったから。それに、私のやりたいことはここにあるわ」


――あなたの、側にいたいから。