夢を見ていた。


『……っ、君は……君たちは』


ここはどこだろう。
薄暗い獣道に、人が倒れている。
怪我を負った二人組を見て、男性の方だけを指した呼び掛けをしてしまい、ジェラルドは訂正した。


『彼女を……妻と子どもを助けてくれ』


どう見ても酷い怪我をしているのは彼の方だったが、男性は力を振り絞るように懇願した。
気を失っている女性の方は、それほどの傷ではない。
身重の妻を守りながら逃げてきたのか、男性の方はここで治療をしても長くはないだろうとすぐに分かった。


『頼む。どうか、お願いだから……二人を助けると約束してくれ。そうじゃないと、僕は……』


――今からやって来るものを、とても受け容れられない。

ギリッと奥歯を噛んだのは、彼ではなくジェラルドだったかもしれない。


『……分かった。約束する』

『ありがとう。……いい人に会えてよかった』


よかった、と。
自分は側にいられないのに、計り知れないほどの愛情があるからこそ、そこまでの傷を負ってなお、ここまで逃げて来たのだろうに。
そう言った男の顔は、泣きながら笑っていた。

――ああ、だから。
だから、あんなところにジェラルドはいたのか。


(()も、約束する。必ず守り抜いて、あんたらが見届けることができなかったものを幸せにすると)


そう誓ったことで彼らは安心したのか、ウィルの意識が寝ているベッドへと戻ってきた。
腕のなかにはもちろんユリアーナがおり、殺されかけたというのに、どんな楽しい夢を見ているのか彼女は微笑んでいるようにすら見える。


「まったく、あんたはお気楽ですね。俺の姫さん」


抱えているものも、突然降り掛かってきたものも大きすぎる。
それなのに彼女は、自分の腕ですやすやと眠ってくれているのだ。


「ずっと、そうやって笑っててください。俺が、そうしますから。あんたの男は、一応、竜の子なんですよ。覚えてます? 」


素肌が触れ合えば、忘れようもないだろうに。
この姫は本当に大物で、それほど深く自分を愛してくれている。


『生まれなんて、関係ないんだよ。あの子は……』


――自分にとって、本物のお姫様だ。


「……必ず、もっと幸せにする。だから、側にいてくれ。ユリアーナ」


そっと頰を撫でると、くすぐったいのか抗議するように首を振り、そのくせもっとくっついてくる。


「愛してる。……俺の姫」


王子様なんて柄ではないが、どうか、口づけさせて。
彼女の方に傾けば、自らの長髪が柔らかな頰を掠めてしまいそうで適当に掻き上げる。


(……お前はよく見たがるよな。この片目(オッド)を。ねぇ、物好きな姫さん)


誰にも見られたくないと思っていた金色の瞳に映した彼女も、やはり愛しく、ウィルにとっては誰より美しかった。