ウィルがそう断言してくれる。
もうそれだけで、幸せだった。
でも、もっと幸せなことに、私はすべて叶うと確信していた。


「大丈夫。サミュエルは誰も手に掛けない」

「……っ、何を」


私のことも、ウィルのことも。
もしかしたらいつか、ここに宿ってくれるかもしれない命のことも。


「ステフのところにいる子たちに、何もしないでくれたもの。それに、こうして話してみて思ったんだけど、やっぱり私には特別な力はないわ。サミュエルに好かれている自信はないし、きっと竜が食べても美味しくないと思う」

「……姫さんはやっぱり、ジェラルドの子ですよ。それに、あんたのことを話す時のオッサンは、従者でも父親の友人でも、ましてや他人なんかじゃなかった」


――たぶん、ちゃんと父親の顔してましたよ。


「……うん。ねえ、だからね。私たちには、父よりももっとできることがあると思うのよ。お父様が既に試行錯誤していて、上手くいったものもいかなかったものも知ってる。ステフもいるし、何よりウィルやサミュエルがいるって大きいんじゃないかしら」


守りたいものが、ここにある。
父はここに残る選択をしたけれど、離れていることで私のことも守ってくれた。


「……なぜ、私を勘定に入れるのですか。私は貴女を殺そうとしているのですが」

「サミュエルはそうしないから。人手は多い方がいいし、私よりも彼らのことに詳しいから。……竜酔の血なんて、なくなった方がいいと思っているから。どれを取っても適任だわ」


ひとまず、彼らが隠れて暮らさなくてもいいような案を出さなければ。
私を連れて行かなければ、サミュエルやご家族が危ない目に遭うのもどうにかしないと。
大所帯になってしまうけれど、可能であれば皆にここに来てもらうというのは難しいだろうか。
ステフにも相談するとして、比較的麓の村の人々は好意的だし、事情だって知っている。
どうにかして、この安全な範囲を広げていかなくては――……。


「……っ、そんな馬鹿な話が……」

「お前が死ねば、姫さんが死ねばどうなる。俺は黙ってなどいないし、そっちもそうだろう。大切な人を奪われて、泣けば終われる人間はそうはいない。お前の言う以上の、“新たな悲劇” を生むぞ。それも、延々な」


そんなことはさせない。
父が力を尽くしたことを私が続けたいし、できなかったことを成し遂げたい。


「竜が悪いとは言わない。要は、人間にも竜にも悪い奴らがいるというだけだ。守りたいものは、どちらからも守る。そうじゃないのか」

「……だけ、ね。簡単に言ってくれる」


ふとウィルが息を吐く。
見上げると、どうやら笑われているのは私らしかった。


「姫さん流に言うと、“そうするしかないから、悩みようがない” のさ。失いたくないものを諦めないのなら、どうにかするしかない」

「……はぁ。幸福の竜が、聞いて呆れる。それでは、ユリアーナ様の方が珍獣だ。竜酔の血族は、もっと神秘的な存在かと思っていました。もはや血が混ざりすぎて、ただの人間に近いというより竜に近いのかも」


失礼な文句を至るところに混ぜ、サミュエルが背中を向けた。


「何にせよ、責任は取っていただきますよ。あなた方は、風習に倣わないどころか、なかったことにしてしまわれるのですから」

「……もちろん。私は、逃げ回るのなんてまっぴらだもの」


両親が与えてくれた、平和な道もあった。
それでも私は、自分の道よりもずっと先まで見ていたい。
この血に使命なんてものがあるなら、きっとそちらだと思うから。