温かさの種類も、源も、胸の厚みや腕の広さも全然違うのに、涙が溢れて止まらなかった。
「辛かったと思う。自分を責めたと思う。母や私の顔を見て、罪の意識に苛まれて止まなかったかもしれない。純粋に幸せだと思う時間は少なかったかもしれないし、そもそもお父様にはなかったかも。でも、きっと後悔はしてなかったんじゃないかって、私は勝手に信じてるの」
「なぜ、そう言い切れるのです。理想論? それとも、希望ですか」
でも、涙の中には、独りの時には流れてくれないものもある。
「違う。私を、ウィルと出逢わせてくれたからよ」
本当に後悔しかなかったのなら。
本当に私や母と過ごした日々が、罪でしかなかったのなら。
(お父様、そうでしょう……? )
きっと、この愛される安心感を、今こうして味わうことはできなかった。
「竜の血が混ざった者に、返したくなっただけなのでは? 」
違う。
絶対に、違う。
「ウィルの人柄を見たから。傷ついているのを知って、私にも癒やしてあげられる可能性をくれた。ウィルが私に許してくれるかもしれないって、思ってくれたから」
――未来を信じて、賭けてくれたから。
「一歩、いたところが違えば。一日、時が違えば、それは私だったかもしれない。なのに、貴女はその男を選ぶのですね」
「……そうね。もしかしたら、サミュエルが父に会う可能性だってあったのかもしれない。でも、私はウィルに逢ったし、何があっても死なないでいようって思えるくらい、好きになったわ」
この優しい人に、これ以上のことは背負わせたくない。
母を残して、他の男性に託していくのを決めた父のような思いはさせたくない。
――絶対に、させない。
「ユリアーナの遠縁じゃなかったのか」
「母君の遠縁だと言ったはず。いくつか遡れば、私も貴方も行き着くのではないですか」
「竜の子か。ふざけるな。人間、みんな親戚じゃあるまいし」
私が何も恐れないと強く思うほど、ウィルの手が震える。
彼が守ってくれていると感じられるから、殺すと宣言されようがそれほど怖くはないのだ。
だから、ウィルのことは私が守りたい。
「竜も人間も敵だった。襲われたらどうするか、どう殺るか、そればかり考えていた」
「ウィル……」
よく、信じてくれたなと思う。
よく、愛してくれたなと思う。
よく……。
――愛すことを許してくれたな、って。
「幸せにしたいと思った。必ず、そうすると決めた。運良く俺ばかり幸せになって腹に据えかねるかもしれないが、まあ、そっちが諦めな」
――俺は二度と、この姫を諦めるつもりはないんでね。



