お荷物令嬢と幸せな竜の子




「どういうこと……? 」


ウィルもこの展開は予想外だったようで、私の方が持ち直すのが早かった。


「そのままの意味です。生まれては困るのですよ。私たちのような悲劇を。あなたも、ずっとそう思っていたのではないですか」

「…………」


『俺のような悲劇を生まないように』


ウィルはそう言っていた。
ずっと、そうやって生きてきたと。
自分が苦しい思いをした分――今も苦しみ続けている分、他の誰かに同じものを負わせたくないと。
それなのに、本当の意味では理解しきれないただの人間の私が望んでしまった。


「それなのに、その血に惑わされ、好きになったと思い込んでいる相手と結ばれて、同じ辛さを自分の子どもやその子孫に押しつけるんですか」

「……言いたいことは分かる」


自分の幸せの為に、強いたのは私。


「その辛さを、普通の人間であるユリアーナに俺は負わせた。たとえ惚れたのが血のせいだとしても、俺はその覚悟を血に惑わされているせいだとは思っていない」


考えを改めたのは、私を想ってくれているから。
それでも、けして後のことを放棄したのではない。
それができたなら、彼はもう少しくらい楽になれたかもしれないのに。
ウィルは、そんなことができる人ではなかった。


「何でも同じですよ。結果として、将来、苦しむ者が増える」

「……そうかもな。自分の幸せの為に、自分の血を継ぐ誰かを犠牲にした。否定するところは何もない」


私は、間違っているのだろうか。
大好きな人とこの先もいたいという気持ちは、未来を思うなら諦めないといけないのだろうか。


「それでも俺は、この人といると決めた。この気持ちが変わることはない。俺が決めた以上、ユリアーナに俺のことを負わせた以上、貫き通す。はいそうですかと渡すわけにはいかない……と、思っていたが」


(……ウィルの馬鹿)


自分こそ、一人で二人のことを背負い込んだりして。
彼に比べたら、私なんて「好きだから、一緒にいたい」をどうしても諦められないという我儘でしかないのに。


「……お前の自己憐憫の為に、なぜこの人が犠牲にならなきゃいけない? そんなこと、許すものか」

「別に、あなたの許しなど請うていませんよ。どちらにせよ、彼女を連れていかずに殺したとなれば、私は処分されるでしょう」

「つまり、道連れか。ふざけるな」


私が行かなければ、サミュエルが咎めを受ける。
私だって捧げものなどにはなりたくないし、死にたくもない。
ウィルが傷つくのは、もっと嫌だ。それなら――……。


「サミュエル」

「「……っ」」


互いが剣を抜こうしたタイミングで、一歩前に出た。 


「その前に、教えてくれないかしら。あなたが知っていることすべて」

「……ユリアーナ。そんなものを知って、何になるんですか。あんたが傷つくだけです。自分の血のことなんて知ったって……」

「もちろん、最期に教えて、なんて言うつもりはないわ。ただ、今の話を聞く限り、たとえ私が死んだって解決には至らないと思うの。それなら、少しでもお互いにとっていい方法を見つけた方がいい」


竜と結ばれた人間は、他にもいる。
ステフの祠にいるだけでも、一人二人の話ではないのだ。
きっと、他にもこの状況を憂いでいる竜も人間もいて、困っているのだと思う。


「命乞いですか? そんなことをしても無駄……」

「いいえ。自分が生きるのに、大切な人に生きていてほしいと思うのに、誰かに願ったり許可を得たりしないわ。でも、サミュエルが罰を受けるのもおかしいと思う」


――誰にも、そんなことはさせない。

父が誓ったことも、もしかしたら、こういうことだったのかもしれない。