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「ジェラルドは、私などには何の興味も示さなかった。彼が気にしていたのは、彼らのことと……そなたやそなたの母親のことだ。ユリアーナ」
お父様らしい。
クスッと笑いながら目が潤んできたのをウィルは見逃さず、そっと抱き寄せてくれた。
「それから、今から思えば、きっとそこの若いののことも」
「……俺だと? まさか、それでここに興味持ったって言うんじゃ」
逃げた子どものことを心配したのは本当だと思う。
でも、もしかしたら以前出会ったウィルに、もう一度会えたら――そんな気持ちもあったのだろう。
「そうかも知れん。とにかく、彼は尽力してくれた。医療は素人だとは言っていたが、それでも恐らく身体は人間に近い彼らのことについて、私よりも詳しかったし、麓の人間よりも親身になってくれていた。それが私たちは嬉しくて、彼を引き留め……結果、帰らぬ人にしてしまった」
母が倒れてから、もともと父も弱っていたのだ。
そんな父にとっては生き甲斐でもあり、父自身が彼らの為に過ごしていたかったのだと思う。
「ステフが殺したのではない。それは、忘れないで」
ステフはふわりと笑い、それには何も応えることはなかった。
「本当にそなたの話はよく出ていた。しかし、ユリアーナの出生や母君のことについて、詳しくは聞いていないのだ。強いていうなら、体調が悪化した時くらいで……何かを察していたのかもしれないな。そなたのことを案じていた。ああ、でも、そういえば……」
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『……ジェラルド。お前には感謝しているが、そろそろ休め。それでは、お前の身がもたん』
『休んでいるよ、ステフ。子どもたちと遊ぶのも、休養に入っているし』
『分かっているだろう。ちゃんと、人間の里で休めと言っている。今より悪化すれば、ここから降りようにも降りれなくなるぞ。それとも何か、帰りたくない理由でもあるのか』
ステフとて、日に日に病状が悪化する父を放っておいたのではない。
しかし、この山道、しかもドラゴンが棲んでいると知っていて来てくれる医師はいなかった。
麓の村医者では手に負えず、苦痛を和らげるのが精一杯。
このままではいずれ、人の手を借りても帰れなくなってしまう。
『そうじゃない。私のお姫様が待っているしね』
『なら……! 今しかないかもしれないのだぞ。今を逃せば、娘に会えなくなるかもしれない。ジェラルド……』
『でもね、ステフ。それと同じくらい私は、もう返せないものを返したいんだ』
『……なに? 』
――私が、奪ってしまったものを。
『けして、もう返せはしない。ずっとそうしなかったくせに、彼女がいなくなってから自己満足の為に動くなんて卑怯だが。それでも、やりたいんだ。たとえ、直接は返さなくても』
何の話だとステフが問うても、父がそれ以上話すことはなかった。



