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『私の、もう一人のお姫様』
ああ、新居、大好きな人の腕で見る夢が父の夢だなんて、ウィルにバレたらまた嫌味を言われてしまいそうだ。
『お父様、嫌だわ。私、もうそんなに小さなお姫様じゃありません。それに、お姫様というのは、お母様やディアーナみたいな人のことを言うんです。きっと、血筋なんて関係なく』
思春期を迎えた頃には、とうに自分が好きではなかった。
悲しかったし、情けなかった。
だからといって特に何もしていなかったのだから、状況が改善しないのも当然かもしれない。
それでも私は、どうにもならない容姿のことばかり気にして諦めることしかできなかった。
『そうとも、血なんて何も関係ない。だからこそ、君は正真正銘、私のお姫様だよ』
(……ああ)
その言葉の意味が、今なら分かる。
貴族の婦人会にディアーナだけ呼ばれて、拗ねて庭に一人でいた私をそう励ましてくれたこと。
その話を少し離れたところで聞きながら、優しく、でも複雑そうに微笑む母の気持ちも。
『……そんな……私は』
口に出る前に何とか「私なんて」を言い換えようとすれば、それ以上のことは何も出てきてはくれなかった。
『ユリアーナ。君は、きっと幸せになれるよ。いや、なるんだ。絶対に』
『……お父様、でも』
恵まれた家柄で生まれたくせに何もできない私が、この上何を望める?
他人の為どころか、自分自身の為にすら何もできてはいないのに。
『大丈夫。だって、もうそう決まっているんだからね』
――信じるんだ。君の幸せを。
・・・
「……ステフ……」
そうだ、ステフだ。
まだ夢の内容が何だったかすらぼんやりとしていて分からないのに、目を開けてまず、彼と話さなくてはいけないと思った。
「……ちょっと待て。今、恋人に抱かれた新居で寝室で、寝言で他の男の名前を呼びました? しかも、ステフだ? ……姫さん。いくらあんたが他に男の名前を知らないからって、それはあんまりじゃないですかね」
「……おはよう。どっちかというと、今のは私が怒るところじゃないかしら」
そういう言い方をするということは、怒るというより呆れているんだろうけれど、事実であろうと失礼は失礼だ。
「そうじゃなくて、昔のことを夢に見て思ったんだけど……私、父の最期について詳しく聞いてなかったわ」
「……探してた親が亡くなったことを知っただけで、十分すぎるほど辛い思いをしてるんですよ。現にあんた、倒れたじゃないですか。これ以上、自分を追い込む必要はない」
一度起こそうとした身体をもう一度寝せて、私の頭をそっと撫でた。
「そうね。でも、あなたといる為なら、厭うほどでもないわ」
幸せは、もう見つけた。
この大切なものを奪われない為なら、それくらいの辛さを避けていられない。
「そんなことを言うなんて、私、親不孝かもしれない」
「……ジェラルドに、何て言われたんですか」
そう笑う私を否定も肯定もせず、ウィルはただ優しく私の髪を梳いてくれた。
「私のお姫様は、絶対に幸せになるって決まってるって。予言、当たってるわね」
その頃にはもう、父には何かしらの予感があったのかもしれない。
もちろん、母とのこともあって、願ってくれていたのもあるだろう。
「じゃあ、孝行者じゃないですか。あんたは、自分の幸せの為に戦ってるんだから。一つだけ、訂正するとしたら」
「……? 」
どこかおかしなところがあっただろうかと、自分の発言を振り返っている間に唇を塞がれる。
「あんたはもう、俺の姫さんです」
頷くべきか、父をカウントして首を振るべきか。
答えは出ないのに恋人からの甘さは求めてしまって、垂れてくるウィルの髪を一房、指で捕まえた。



