「ちゃんと残ってるね、名前」 ベンチの背に刻まれたふたりの名前。 イチョウの幹と同じくらいしっかりと色をたたえ、浮き上がって見える。 「そうすぐに消えられちゃ困る」 宏人は、指先で感触を確かめるように、名前をきゅっとなぞった。 「もっとでっかく彫ればよかったかな」 そう言いながらあの笑顔で振り向いた宏人の肩に、ひらひらとイチョウの残り葉が舞い落ちた。