キーン・コーンカーン・コーン
授業終了のチャイムがなる。
僕は約束していた通り、いつものベンチへ向かった。
昨日・今日と、さんちゃんへの勧誘が失敗したのだから少々足取りは重いが、
やるべきことはやったつもりだ。
ベンチに近づくと、すでに仁太と玲子さんがいた。
「やあ、一郎君。勧誘はどうだった?」
仁太が無邪気に聞いてくる。
「一度は断られてしまったけど、今はちょっと考えるってさ。
ちょっと僕の部屋空気が悪くてさ。時間がかかりそうだ。」
僕が苦笑いしながら困った顔を作って言うと、仁太が続けて問うてきた。
「同部屋の人とあまり仲良くない感じ?それともなんかあった?」
そうきいてきたので、僕は昨日からの出来事を事細かに説明する。
説明しながら、そういえば僕が最初にシニアの佐々木監督に電話した時も
やたらと機嫌が悪かったことを思い出す。
僕に対してというより、野球に対して何か嫌悪感があるのだろうか。
そうこうしているうちに、校舎の方かから2人の人影がやってきた。
「やっほー!お待たせ!!連れてきたよ」
そう言って玲子さんが八尋と一緒にやってきた。
「よ!なんか野球やるんだってな。俺でよければ力を貸すぜ。」
片手を上げなら八尋が言う。
ヤンキーのような口調だが、吾郎と違って尖ってはいない。
「そういうことで、6人は揃ったわね。あれ、三田陸ことさんちゃんは?」
玲子さんが爽やかに僕に問う。
いやいやいや、そんな当たり前のように言われても。。
「なんだ、俺以外にも誘っている奴がいるのかよ。
こんな面白そうな部活に入らないのはもったいねえ。誰だよ、そいつ」
八尋にも言われたので、仕方なしに僕は先ほど仁太に説明した通りにもう一度言う。
「あーらら、振られちゃったのね。」
玲子さんが面白がっていう。
あまり落ち込んでいないようだ。
かくいう僕も八尋が入ってきて少しだけ気分が晴れていた。
これで5人が揃ったのだ。
玲子さんが僕たち全体を見て、咳払いをする。
「えー、では、改めまして、桜木高校に野球部を発足します。」
もう、僕らは誰も玲子さんがこの部活を仕切るのに疑問を持たない。
ここまでスムーズに事が運んでいるのは他でもなく、玲子さんのおかげなのだ。
そしてそれは僕含め、ここのみんなが認めている事だし、その風格が十分玲子さんには備わっている。
続けて玲子さんが生徒会へ提出する部活発足の紙を取り出して言う。
「さて、部員になった皆さんには、証拠としてこの紙に名前を書いてもらうわ。
それからユニフォームの注文と道具と部室の申請をしなければならないわね。」
そう言って玲子さんは紙を僕によこしてきた。
最初に記名して皆んなに回してと言う意味だろう。
僕は紙を手にして中身をみる。
ん??すでにメンバーと役割が記載されているではないか。
僕はポカンとしながら玲子さんをみる。
玲子さんは待ってましたとばかりに僕たちに説明をした。
「いい、この前も言ったけど、人には適材適所があるものよ。
生徒会に出す紙には最低限、顧問の先生の名前とキャプテンだけ決まれば問題なしなのだけど、
後で揉めるの嫌なので、先に決めるわよ。
一郎君、あんたはエースを頼むわ。まあ、ピッチャーということね。
それから仁太、あんたはキャッチャー。
九条、あんたは前回から変わらずにライトを担当してもらうわ。
それから八尋、あんたはセンターね!
で、マネージャーは私。
ここまでで、異論のある人は?」
異論というか、野球経験者である僕と九条さんはともかく仁太と八尋のポジションはそれこそ
適正を見てからの方が良いのでは。。
僕と同じことを仁太も思っているらしい。仁太が発言しする。
「あの、異論ではないですが、僕がキャッチャーである理由を教えていただけないでしょうか。」
玲子さんがニッコリ笑って仁太に言う。
「もう分かってるんじゃない?確かに野球の技術面についてはまだわからない。
けれど、今までの性格や勧誘のために披露してくれた知恵はキャチャーにピッタリと思うからよ。
逆に言うと、技術はこれから磨ければいい。けれど、センスというものはそう簡単に身につくものではないということよ。」
なるほど。と僕は思う。確かにキャッチャーには僕のように感情の起伏の激しい人は向いていない。
それよりも、機転が効くような、そう、この前問題集をあっという間に作って実行してしまうようなタイプが向いているのかもしれない。
僕は納得すると同時に玲子さんへの信頼がさらに増す。
玲子さんが野球部にいてくれることで、この先もずっと彼女に感謝することになりそうだ。
「で、八尋、あんたがセンターの理由も知りたい?」
「いや、俺はどこだって構わねえよ。」
これで格ポジションは決まったようだ。
「それから、やるからには目標、つまりこの野球部のスローガンを作ってもらうわ。
ダラダラ野球をするためなんかに私は時間を取られたたくないの。」
これに関しては僕も大賛成だ。やるからには甲子園を目指したい。
玲子さんが僕に視線をよこす。
発言するように促してくれてたので僕は言う。
「皆さん、野球部に入部していただいてありがとうございます。
僕は小学生の頃から野球をやっていました。
色々あって、この学校に入学しましたが、目標は最短で甲子園に行くことです。」
「ねえ、一郎くん、ずっと前から気になっていんだ。その最短っていうのはどういう意味なの?」
仁太が口を挟む。
「そうだな、1番確率の高い方法で、確実に甲子園には行きたいんだ。
2年後とかまでも待ってられない。僕には甲子園に出て、注目を浴びる必要がある。」
僕はまっすぐ皆んなを見渡して力強く言う。
妹に対する心の内はまだ言えないけど、誰も反論しない。
「そうね。それは私も賛成。他の皆んなは?」
玲子さんが味方についてくれたことで、さらに空気がピシッとする。
皆んなも頷く。
「それでは決まりね。スローガンは“最短野球“これでどうかしら。」
そう聞いときながら、入部届の目標の箇所に玲子さんが記入し始める。
「さて、最短という意味が1番高い確率でと言う意味であるのであれば、
早めに取り組んだ方がいいわね。だとすると、顧問の先生はいない方がいい。
人数多くなればなるほど、ややこしくなる。であれば最低人数の9人。マネージャーを入れて10人の部員が望ましいわ」
玲子さんがとんでもないことを口にする。
「え、でも入部届には顧問の先生を入れる必要があるのでは?
僕らは西村先生に再び顧問になって頂くために部員を集めたのだと思っていました。
それに、9人だと、誰か1人でも怪我をしたら試合にも出られないし。」
とっさに思ったことを聞くと、玲子さんは続けて言う。
「逆に言うと、9人いれば試合ができる。この学校の全生徒数は?」
「え、えーっと1学年30人だから、30✖️3学年の90名です」
「そう言うこと、その90人から9人を集めればいいの。
つまり、入部するかしないかの2択にすれば、確率的にはまだそんなに深刻な問題ではない。
ただし、今までどおり、さんちゃんを野球部に勧誘することは必須ね。
必ず、この問題集を正解した人がこの部活には必要になってくるわ。」
「なるほどな。最短野球って高確率野球のことか。
これはいいな。俺もやる気が出てきた。で、監督なしっていうのも
余計な指導者が増えると混乱するってか?」
八尋のツッコミに対してこれまた玲子さんが補足説明を加える。
「そうね。それに近いわ。最初は私も西村先生の戻ってきもらうことを考えたわ。
だけど、この部活のスローガンをが最短野球であるのであれば、話は別。
以前まで野球部だった九条によると、西村先生は優秀だけど、一々練習の意味なんかを生徒たちには教えなかった。
そうよね?九条」
「え、う、うん。私はひたすら野球の問題集を解くように言われていたけど、他の人はプールで泳ぐように指示されていたり。
初め理由はわからなかったけれど、勝ち進んでいくうちにやっぱり西村先生はすごいなって思ったんだけど。」
「そこよ。九条。確かに西村先生は優秀だわ。噂通り手段を選ばない人みたいね。
生徒皆んなが九条のように純粋に言われたことだけを守れるのであればそれでいい。
だけど、廃部になった通り、つまり、遅かれ早かれ一郎君が校長室でアンケート結果をみた通りのことが起きることが予想されるわ。
ならばいっそのこと監督という権限をなくしてしまえばいい。西村先生にはただのお人よしとして、たまに助言を求めるくらいがちょうどいい。」
なるほど。もっともな言い分だ。
だが、僕がこの学校を選んだのは西村先生に教えを乞うことができると思ったからだ。
西村先生なしで、やっていけるものかと訝しんだが、さすがは玲子さん。
西村先生にはたまに助言を求め、監督というものを置かない。
マネジメントとしては良いかもしれない。
「でもよ、生徒会への届け出には監督は必須なんだろ?どうすんだよ。」
八尋が突っ込む。
「そうね、みんなだったらどうする?」
玲子さんがいたずらっ子のように微笑む。
それをみて仁太が納得したように頷いて答える。
「あ、わかりました。権力をかざさない、つまりあまり野球に興味のない人を引っ張るとか?」
「そうね。確かにそれだと私たちの足を引っ張ることはなさそう。
だけど、どうせなら足を引っ張るではなく、プラスになるような人材が欲しいわ。」
「じゃあ、どうすんだよ。人気な教師に依頼して部員を集めるとか?」
八尋がぶっきら棒にいう。
「そうよ!八尋大正解!!部員を集めるというよりかは、顧問の先生には
対戦相手を探してもらったり、対外的なことに活躍してもらう。どう?」
玲子さんのいたずらっ子の顔がさらに増す。
そして九条さんが思いついたようにいう。
「ねえ、英語の先生だっけ?ハリウッド界でも有名な井ノ口先生なんてどうかしら?
IT社長の川端先生も日本では有名よねえ。」
「そうね。ここから先は好みだけど、コミュニケーショスキル、そして今後のTV取材を考えると、
井ノ口先生が適任だと思うけど、どう?」
なるほど、さすが玲子さん。もう僕達が注目を浴びる前提で考えている。
「良いんじゃね?」
八尋の一言で僕らも頷いた。
これで野球部の発足だ。
まだまだやることはたくさんだし、これから始まる高校野球人生。
僕はワクワクしていた。
入学する前は、とにかく注目を浴びてTVに映ることしか考えていなかった。
今だってその思いは変わらない。
けれど、僕の視野少しずつ広がっているような気がする。
ひよりは僕がこの学校で野球をすることをどう思うだろうか。
もし、賛成してくれるのであれば僕はこの学校で頑張ってみたい。
いつの間にかそう思うようになっていった。
To ひよりへ。
元気にしているか?
体調はどうだ?
僕は桜木高校で野球をすることにしたよ。
甲子園に行って必ずひよりを楽しませてやるよ。
だから、どうかひよりに見守って欲しい。
今夜、僕はひよりにメールを送る。
プレイボール。今日は僕の野球人生が始まった日だ。
僕はこの日を忘れないよう心に刻んだ。
授業終了のチャイムがなる。
僕は約束していた通り、いつものベンチへ向かった。
昨日・今日と、さんちゃんへの勧誘が失敗したのだから少々足取りは重いが、
やるべきことはやったつもりだ。
ベンチに近づくと、すでに仁太と玲子さんがいた。
「やあ、一郎君。勧誘はどうだった?」
仁太が無邪気に聞いてくる。
「一度は断られてしまったけど、今はちょっと考えるってさ。
ちょっと僕の部屋空気が悪くてさ。時間がかかりそうだ。」
僕が苦笑いしながら困った顔を作って言うと、仁太が続けて問うてきた。
「同部屋の人とあまり仲良くない感じ?それともなんかあった?」
そうきいてきたので、僕は昨日からの出来事を事細かに説明する。
説明しながら、そういえば僕が最初にシニアの佐々木監督に電話した時も
やたらと機嫌が悪かったことを思い出す。
僕に対してというより、野球に対して何か嫌悪感があるのだろうか。
そうこうしているうちに、校舎の方かから2人の人影がやってきた。
「やっほー!お待たせ!!連れてきたよ」
そう言って玲子さんが八尋と一緒にやってきた。
「よ!なんか野球やるんだってな。俺でよければ力を貸すぜ。」
片手を上げなら八尋が言う。
ヤンキーのような口調だが、吾郎と違って尖ってはいない。
「そういうことで、6人は揃ったわね。あれ、三田陸ことさんちゃんは?」
玲子さんが爽やかに僕に問う。
いやいやいや、そんな当たり前のように言われても。。
「なんだ、俺以外にも誘っている奴がいるのかよ。
こんな面白そうな部活に入らないのはもったいねえ。誰だよ、そいつ」
八尋にも言われたので、仕方なしに僕は先ほど仁太に説明した通りにもう一度言う。
「あーらら、振られちゃったのね。」
玲子さんが面白がっていう。
あまり落ち込んでいないようだ。
かくいう僕も八尋が入ってきて少しだけ気分が晴れていた。
これで5人が揃ったのだ。
玲子さんが僕たち全体を見て、咳払いをする。
「えー、では、改めまして、桜木高校に野球部を発足します。」
もう、僕らは誰も玲子さんがこの部活を仕切るのに疑問を持たない。
ここまでスムーズに事が運んでいるのは他でもなく、玲子さんのおかげなのだ。
そしてそれは僕含め、ここのみんなが認めている事だし、その風格が十分玲子さんには備わっている。
続けて玲子さんが生徒会へ提出する部活発足の紙を取り出して言う。
「さて、部員になった皆さんには、証拠としてこの紙に名前を書いてもらうわ。
それからユニフォームの注文と道具と部室の申請をしなければならないわね。」
そう言って玲子さんは紙を僕によこしてきた。
最初に記名して皆んなに回してと言う意味だろう。
僕は紙を手にして中身をみる。
ん??すでにメンバーと役割が記載されているではないか。
僕はポカンとしながら玲子さんをみる。
玲子さんは待ってましたとばかりに僕たちに説明をした。
「いい、この前も言ったけど、人には適材適所があるものよ。
生徒会に出す紙には最低限、顧問の先生の名前とキャプテンだけ決まれば問題なしなのだけど、
後で揉めるの嫌なので、先に決めるわよ。
一郎君、あんたはエースを頼むわ。まあ、ピッチャーということね。
それから仁太、あんたはキャッチャー。
九条、あんたは前回から変わらずにライトを担当してもらうわ。
それから八尋、あんたはセンターね!
で、マネージャーは私。
ここまでで、異論のある人は?」
異論というか、野球経験者である僕と九条さんはともかく仁太と八尋のポジションはそれこそ
適正を見てからの方が良いのでは。。
僕と同じことを仁太も思っているらしい。仁太が発言しする。
「あの、異論ではないですが、僕がキャッチャーである理由を教えていただけないでしょうか。」
玲子さんがニッコリ笑って仁太に言う。
「もう分かってるんじゃない?確かに野球の技術面についてはまだわからない。
けれど、今までの性格や勧誘のために披露してくれた知恵はキャチャーにピッタリと思うからよ。
逆に言うと、技術はこれから磨ければいい。けれど、センスというものはそう簡単に身につくものではないということよ。」
なるほど。と僕は思う。確かにキャッチャーには僕のように感情の起伏の激しい人は向いていない。
それよりも、機転が効くような、そう、この前問題集をあっという間に作って実行してしまうようなタイプが向いているのかもしれない。
僕は納得すると同時に玲子さんへの信頼がさらに増す。
玲子さんが野球部にいてくれることで、この先もずっと彼女に感謝することになりそうだ。
「で、八尋、あんたがセンターの理由も知りたい?」
「いや、俺はどこだって構わねえよ。」
これで格ポジションは決まったようだ。
「それから、やるからには目標、つまりこの野球部のスローガンを作ってもらうわ。
ダラダラ野球をするためなんかに私は時間を取られたたくないの。」
これに関しては僕も大賛成だ。やるからには甲子園を目指したい。
玲子さんが僕に視線をよこす。
発言するように促してくれてたので僕は言う。
「皆さん、野球部に入部していただいてありがとうございます。
僕は小学生の頃から野球をやっていました。
色々あって、この学校に入学しましたが、目標は最短で甲子園に行くことです。」
「ねえ、一郎くん、ずっと前から気になっていんだ。その最短っていうのはどういう意味なの?」
仁太が口を挟む。
「そうだな、1番確率の高い方法で、確実に甲子園には行きたいんだ。
2年後とかまでも待ってられない。僕には甲子園に出て、注目を浴びる必要がある。」
僕はまっすぐ皆んなを見渡して力強く言う。
妹に対する心の内はまだ言えないけど、誰も反論しない。
「そうね。それは私も賛成。他の皆んなは?」
玲子さんが味方についてくれたことで、さらに空気がピシッとする。
皆んなも頷く。
「それでは決まりね。スローガンは“最短野球“これでどうかしら。」
そう聞いときながら、入部届の目標の箇所に玲子さんが記入し始める。
「さて、最短という意味が1番高い確率でと言う意味であるのであれば、
早めに取り組んだ方がいいわね。だとすると、顧問の先生はいない方がいい。
人数多くなればなるほど、ややこしくなる。であれば最低人数の9人。マネージャーを入れて10人の部員が望ましいわ」
玲子さんがとんでもないことを口にする。
「え、でも入部届には顧問の先生を入れる必要があるのでは?
僕らは西村先生に再び顧問になって頂くために部員を集めたのだと思っていました。
それに、9人だと、誰か1人でも怪我をしたら試合にも出られないし。」
とっさに思ったことを聞くと、玲子さんは続けて言う。
「逆に言うと、9人いれば試合ができる。この学校の全生徒数は?」
「え、えーっと1学年30人だから、30✖️3学年の90名です」
「そう言うこと、その90人から9人を集めればいいの。
つまり、入部するかしないかの2択にすれば、確率的にはまだそんなに深刻な問題ではない。
ただし、今までどおり、さんちゃんを野球部に勧誘することは必須ね。
必ず、この問題集を正解した人がこの部活には必要になってくるわ。」
「なるほどな。最短野球って高確率野球のことか。
これはいいな。俺もやる気が出てきた。で、監督なしっていうのも
余計な指導者が増えると混乱するってか?」
八尋のツッコミに対してこれまた玲子さんが補足説明を加える。
「そうね。それに近いわ。最初は私も西村先生の戻ってきもらうことを考えたわ。
だけど、この部活のスローガンをが最短野球であるのであれば、話は別。
以前まで野球部だった九条によると、西村先生は優秀だけど、一々練習の意味なんかを生徒たちには教えなかった。
そうよね?九条」
「え、う、うん。私はひたすら野球の問題集を解くように言われていたけど、他の人はプールで泳ぐように指示されていたり。
初め理由はわからなかったけれど、勝ち進んでいくうちにやっぱり西村先生はすごいなって思ったんだけど。」
「そこよ。九条。確かに西村先生は優秀だわ。噂通り手段を選ばない人みたいね。
生徒皆んなが九条のように純粋に言われたことだけを守れるのであればそれでいい。
だけど、廃部になった通り、つまり、遅かれ早かれ一郎君が校長室でアンケート結果をみた通りのことが起きることが予想されるわ。
ならばいっそのこと監督という権限をなくしてしまえばいい。西村先生にはただのお人よしとして、たまに助言を求めるくらいがちょうどいい。」
なるほど。もっともな言い分だ。
だが、僕がこの学校を選んだのは西村先生に教えを乞うことができると思ったからだ。
西村先生なしで、やっていけるものかと訝しんだが、さすがは玲子さん。
西村先生にはたまに助言を求め、監督というものを置かない。
マネジメントとしては良いかもしれない。
「でもよ、生徒会への届け出には監督は必須なんだろ?どうすんだよ。」
八尋が突っ込む。
「そうね、みんなだったらどうする?」
玲子さんがいたずらっ子のように微笑む。
それをみて仁太が納得したように頷いて答える。
「あ、わかりました。権力をかざさない、つまりあまり野球に興味のない人を引っ張るとか?」
「そうね。確かにそれだと私たちの足を引っ張ることはなさそう。
だけど、どうせなら足を引っ張るではなく、プラスになるような人材が欲しいわ。」
「じゃあ、どうすんだよ。人気な教師に依頼して部員を集めるとか?」
八尋がぶっきら棒にいう。
「そうよ!八尋大正解!!部員を集めるというよりかは、顧問の先生には
対戦相手を探してもらったり、対外的なことに活躍してもらう。どう?」
玲子さんのいたずらっ子の顔がさらに増す。
そして九条さんが思いついたようにいう。
「ねえ、英語の先生だっけ?ハリウッド界でも有名な井ノ口先生なんてどうかしら?
IT社長の川端先生も日本では有名よねえ。」
「そうね。ここから先は好みだけど、コミュニケーショスキル、そして今後のTV取材を考えると、
井ノ口先生が適任だと思うけど、どう?」
なるほど、さすが玲子さん。もう僕達が注目を浴びる前提で考えている。
「良いんじゃね?」
八尋の一言で僕らも頷いた。
これで野球部の発足だ。
まだまだやることはたくさんだし、これから始まる高校野球人生。
僕はワクワクしていた。
入学する前は、とにかく注目を浴びてTVに映ることしか考えていなかった。
今だってその思いは変わらない。
けれど、僕の視野少しずつ広がっているような気がする。
ひよりは僕がこの学校で野球をすることをどう思うだろうか。
もし、賛成してくれるのであれば僕はこの学校で頑張ってみたい。
いつの間にかそう思うようになっていった。
To ひよりへ。
元気にしているか?
体調はどうだ?
僕は桜木高校で野球をすることにしたよ。
甲子園に行って必ずひよりを楽しませてやるよ。
だから、どうかひよりに見守って欲しい。
今夜、僕はひよりにメールを送る。
プレイボール。今日は僕の野球人生が始まった日だ。
僕はこの日を忘れないよう心に刻んだ。
