「それでは、始めさせていただきます。軽くですが患部に触れるので、痛いかもしれません」
(あの手袋は?)
マルティーナは薄手のレース製手袋をポケットから取り出しはめてから、そうっとガラン先生の右手に自身の手を当てた。
それから顎を少し上げ、空中の1点を見つめた。
(ヴァレリアと同じだ!)
手から出る光に照らされたマルティーナの横顔を見て、ルーカスは瞬間的にそう思った。
前世から数えてもそれほど人数は多いわけではないが、それでもルーボンヌの聖職者たちが治癒魔法を使う現場をこの目で見てきた。
治癒を施す間、自分の手を見つめ続ける者、目を閉じて俯く、あるいは天を仰ぐ者と様々だった。
しかし、どこでもない1点を見つめているは、ヴァレリアとマルティーナだけだ。
(それだけでマルティーナがヴァレリアだという証拠にはならないが……でも!)
マルティーナの手の輝きはますます強くなり、それから徐々に小さくなっていった。



