マルティーナの家は高祖父の代から伯爵位を賜っていて、農作物がよく採れる肥沃な土地を領地として与えられていた。
十分に裕福だったと思う。
それでも今にして思い返せば、マルティーナの父親には政治の中枢にかかわりたいという野心があったのかもしれない。
ルーボンヌ神国において、教会のもつ力は大きい。
大神官ともなれば、王の選定会議においても発言権があるといわれているほどだ。
大神官とまではいかなくとも、階級の高い聖職者を輩出した家門は、何かと取り立ててもらえる。
母親のほうも、さらに家を盛り立てることを夢見ていたようだった。
早くから、マルティーナと年齢が近い令息がいる格上の家門をリストアップし始めた。
それは即ち、マルティーナの嫁ぎ先候補というわけだ。
さらにそれだけでは飽き足らず、マルティーナの兄姉の分のリストまで作っていた。
その様子は、まるで選ぶ権利がこちら側にあると思いこんでいるかのように見えた。
そうして実際、マルティーナに婚約者がいた時期もあった。



