パウラがようやくマルティーナに追いついた。
けれど、マルティーナの歩く速度は落ちない。
それほどまでに全身が怒りでいっぱいだった。
「さっきの人は知り合い?」
「全然知らない人よ」
「そうなの? てっきり知り合いなのかと思ったんだけど」
「知っていたら、私のことを聖女だなんて勘違いするはずがないわ」
マルティーナの頬を涙がつたった。
パウラがマルティーナの腕に触れ、優しくさすった。
「つらいことがあったんだね」
遅れて4人もやってきた。
「マルティーナ!」
息を切らしていた。
マルティーナが泣いていることに気がつき、明らかに気まずい空気になった。
皆して黙ると、食堂のほうから喧騒が聞こえてきた。
自分たちがあの中に混じっていたのはつい先ほどのはずなのに、ずいぶんと時間が経ったように感じられた。
寮まで、パウラがマルティーナから手を離すことはなかった。
パウラに伝えることはできなかったものの、マルティーナはその手の温かさにいくぶんか慰められたのだった。



