(よりによって私を聖女だなんて!)
マルティーナは、地面に怒りをぶつけるようにして歩いた。
(何も知らないくせに!)
心の中でそう叫んだが、すぐにかぶりを振った。
(いいえ、そうではないわ。中途半端に知ってるから質が悪いのよ。きちんと詳細まで知るか、そうでなければ何も知らないでいてよね!)
考えれば考えるほどムカムカした。
偉そうな態度だった。
到底、他人に訊ねる態度ではなかった。
(上級生なのかしら? そして、こっちが新入生だと気づいていて……?)
なるほど。
学院では身分の差はなくとも、学年による上下関係はあるのか。
しかし、それにしても不躾だ。
(ちょっと顔がいいからって!)
ちょっとどころでなく、相当なイケメンだった。
涼しげな目元に、すっきりとした鼻筋。
実のところ、マルティーナのタイプな顔だった。
しかしそれも吹き飛んでしまうほど、マルティーナは怒っていた。



