ルーカスは座っていた椅子をさらにマルティーナの寝ているベッドに引き寄せ、真上から覗き込むようにした。
その寝顔は、普段以上にヴァレリアに似ている。
(この光はヴァレリアの神聖魔法によるものなのだろうか……)
「……ヴァレリア」
マルティーナの目の際から、つーっと涙が流れ出た。
「ヴァレリア?」
どこか痛いのかと心配したが、表情は穏やかだ。
ルーカスはハンカチを取り出すと、そうっと押さえてやった。
するとマルティーナはゆっくりと目を開け、それから首をほんの少し回してルーカスを見た。
小さく、おまけに擦れていた。
しかし、聞き間違えではない。
「アーロン様、」
かつての自分の名前を呼んだ。
ヴァレリアと同じ表情、同じ声色で。
「またそのようにお疲れのご様子」
労りの眼差しを向け、ルーカスの頬に軽く触れた。
マルティーナの指先から心地よい熱が伝わってくる。
(これは、治癒魔法……?)
まぶたが重くてどうにも抗えなかった。
そこでルーカスの意識は途切れた──



