玉響の花霞    弍

『2人が一緒にいるところを見かけたと
 後から聞いた時は俺もかなり荒れてて
 怒りの矛先が翔吾だけに向かった‥
 警察沙汰になるくらい喧嘩もした‥』


筒井さん‥‥


泣いてはいけないのに、目尻から
涙が溢れてしまうと、それに気づいた
筒井さんの指が涙を丁寧に拭い
少しだけ強く抱きしめてくれた。



『お前が泣いてどうする‥‥』


「ごめ‥なさい‥‥」


『マスターに会って立ち直ってから、
 彼女と会って話したよ‥このまま
 だと前に進めないからなって‥‥。
 彼女は翔吾に逃げることを手伝って
 もらったけど、学生の立場で
 捕まるのは時間の問題で、すぐに
 連れ戻され結局は決められた人と
 結婚することになったんだ。』


えっ?


「伊野尾さんとは付き合わなかった
 ということですか?」


自分が不利な立場になりながらも、
大切な人のそばにいたのに?


『フッ‥‥因果応報‥ってヤツだな。』


因果応報?


『人はさ善い行いをすれば、善い報いが
 あるように、悪い行いをすれば
 悪い報いが来るんだ‥‥人を傷つけて
 そのままにしておけば、自分も傷つく
 ‥‥‥俺も遊んでた代償が暫くは
 あったから自業自得ってやつだ‥。』


難しいけど、なんとなく言っている
意味は伝わる‥‥


『翔吾が彼女のことを思って
 勝手にしたことかもしれないが、
 彼女はただ政略結婚から逃げたかった
 だけで、翔吾のことは友達としか
 思ってなかった。俺が見かけた男は
 知らないヤツだったしな‥‥。
 彼女と最後に話す為にあった時に
 言われたよ。よりを戻したいと。』


えっ?


そんなのって酷い‥‥‥酷すぎる‥


『あんなに将来まで考えた相手なのに、
 あの一言で怒りとか悔しさとか
 そんなのがどうでもよくなって、
 それから暫くは仕事だけに集中
 してた。翔吾のこともあの時彼女を
 連れ去ったのは間違ってるけど、
 少しだけ同情もした。
 アイツはアイツなりにちゃんと
 彼女と向き合ってたけど、結局は
 利用されただけだったから。』


「じゃあ‥‥あの‥優香里さんが
 あんなに伊野尾さんに冷たいのは
 妹さんを連れ去ったからですか?」


とても婚約者とは思えない冷たい
態度で、そこに愛情は感じられず
敵意さえ感じられた‥‥


『どうだろうな‥‥。
 それは当人たちにしか分からない
 ことだから。
 翔吾はいいヤツだよ‥‥ただ、
 俺と好きになるものが多くてさ‥
 ‥‥今はお前とかな?』


ドクン