玉響の花霞    弍

あまりにも普通に接してくる筒井さんに
全く頭がついていかず、車が発進して
から暫くしてから海浜公園の駐車場に
車を停車させてくれた。


「あ、あの‥‥フランスから
 どうやってこんなに早く戻って
 みえたんですか?」


エンジンを切ると、
筒井さんがハンドルに肘をついたまま
私の方を見た。


相変わらず整った容姿で、
久しぶりに見るからか真っ直ぐ見るのが恥ずかしく視線を逸らしてしまう


『出張で最後に寄ったのが韓国で、
 日本の近くにいたからな‥‥。
 お前のことがあって色々考えて、
 相談してこっちに早めに
 戻れないか相談しに来てた。』


えっ?


俯いていた顔を上げると、
真っ直ぐ伸びて来た手が私の頬を撫でる


『‥‥‥もう待たなくてもいいぞ?』


「筒井さん‥ほんとに‥?」


会えただけでも信じられないのに、
筒井さんが日本に戻ってくる事が
何よりも嬉しくてまた泣きそうになる


『フッ‥‥。ほら確かめるんだろ?』



涙が流れた場所を親指が優しく横に
拭い、少し震えた手を筒井さんの手に
そっと重ねて瞳を閉じると、
シートベルトを外す音がした後
優しく抱き締められた


筒井さん‥‥ッ‥


温かい腕の中の安心感に
ようやく筒井さんだって実感する‥‥


『帰国の時期は相談してからだから
 本帰国はもう少し後になるが、
 これからはまた一緒に働けるな‥』


「ッ‥はい‥‥」


『顔を見せて‥‥』


腕の中から離れるのが寂しいまま
今度は両頬を筒井さんの手で包まれると
至近距離で視線がぶつかり、
苦笑いされてしまう。


『間に合って良かった‥‥‥。
 お前を会社に偶々迎えに行った時に、
 エントランスの外で追いかけられ
 てるのを見て本当に焦った‥‥。
 本当に色々巻き込まれて困った
 ヤツだ‥‥』


「痛っ!!‥‥もう筒井さん!」


鼻を摘まれた後塞がれた唇がすぐに
離れると、また綺麗な顔が笑った。


『もう確かめなくても
 顔が赤いから分かったんだろ?』


「な、何言って‥‥そんな‥ンンッ!」



会う直前まで心配をかけてしまい、
やっぱり笑顔ではなく泣いてしまったけど、筒井さんに触れられる場所全てが
愛しくて、薄暗い車内で暫くキスの
音だけが響いていた



『よし‥お腹が減りすぎたから
 ご飯に行こう。‥‥いつまでも
 そんな顔が赤いままだと
 降りられないぞ?』


ドクン