玉響の花霞    弍

次の週

いつも通りに出社をして仕事を
していると、受付の電話がなり
深呼吸をしてから受話器を取った


「はい、株式会社DUEL受付の
 井崎でございます。」


『(伊野尾 翔吾っている?)』


えっ?


伊野尾って‥‥
ジュニアの事だよね‥‥。


「あの‥大変失礼ですが、お客様の
 お名前をお伺いしてもよろしいで
 しょうか?」


横にいる佐藤さんに、目で合図を
した後、メモにジュニア宛ての電話
などと走り書きで書いていく。


会社や支店などからの電話なら、
企業名や名前を名乗ることが普通
なのに、電話の相手は何も言わない
のでいることを伝えない方がいい気が
してしまったのだ。


『(は?あなた私のこと知らないのね?
 電話を今すぐ繋いで?婚約者の黛と
 言えば分かるはずだから。)』


「‥‥黛(まゆずみ)様ですね。
 ご確認致しますので暫く
 お待ちくださいませ。」


保留にして佐藤さんに確認してから
秘書課に電話をすると、ジュニアにすぐに繋いでもらえた。


婚約者って‥‥
そんな方から勤務先に何の用事
なのだろう?


親しい方ならスマホにかけるはずだし、
もしかしたら緊急なのかもしれない‥‥


『伊野尾です。井崎さん
 どうかした?』


「あの‥お忙しいところすみません。
 受付に婚約者の黛様からお電話が
 入っておりますがお繋ぎしても
 よろしいでしょうか?
 それともお断りした方が
 よろしければそう致します。」


『‥‥‥‥断ってくれないか?
 会議で抜けられないとでも
 伝えてくれたらいいから。』


「は、はい‥かしこまりました。」


佐藤さんにバツと両手でサインを出すと
深呼吸をして外線の受話器を取った。


『(遅い!!繋ぐだけなのに
 どれだけ時間かかってるの!?)』


ビクッ


「た、大変申し訳ありません。
 伊野尾は只今会議の為電話に
 お繋ぎすることが出来かねます。
 伝言などございましたらお伝え
 致しますがいかがされますか?」


いきなりの怒鳴り声に心が折れそうに
なりつつも、ジュニアの声色が沈んで
聞こえたので、なんとか私に出来る
応対をしようと試みる


『(あんたに伝えてもらうことなんて
 ないに決まってるでしょ!?
 翔吾がそこにいることは分かったから
 いいわ?後日直接行くから。)』


「えっ?あ!‥‥‥あの!」