玉響の花霞    弍

何故か帰りづらくて、ロッカールームで
画像を開いてから、別荘の湖畔で
筒井さんと並んで撮った画像を見ていた


まだあれから一月も経ってないのに、
もう顔が見たい‥‥‥


1人で泣くくらいなら連絡しろって
言ってくれたけど、今声を聞いたら
きっと泣いてしまう‥‥


菖蒲に心配かけたのでメールを送ると
暫くしてから休憩室のドアを開けた。



ガチャ


『やっと出てきた。』


えっ?


顔も名前も分からないスーツを着た
男性が、少し離れた場所に立っていて、
私を見ると近付いてきたので、
軽く頭を下げた。


『井崎さん、少しお時間いいですか?』


「えっ?‥‥あ‥‥はい。」


誰だろう‥‥‥
1年以上勤めてるけど、社員数が
多い企業だからいまだに知らない人なんて物凄く多い。


こんなに背が高くて、顔立ちも綺麗な
男性なら印象に残りそうなんだけどな。



『俺、今年企画部に配属になった
 1年目の杉浦 大智(だいち)って
 言います。あ、あの‥‥井崎さんって
 犬塚さんといつも一緒にいますよね?
 仲が宜しければ聞いて欲しいことが
 あるんです。』


「犬塚?あ‥‥菖蒲のことですね。
 はい、同期ですし大切な友達です。」



分かった!!
この子‥企画部に新しく入ったっていう
噂の子だ‥‥


菖蒲が目の保養になるって言ってたし、
彼の顔立ちからして間違いない。



『あの‥‥ッ‥俺‥‥犬塚さんのこと
 気になっていて‥その今は仲良く
 なれたらいいなって
 思ってるんですが、恋人とか
 いるのか知りたくて‥すみません、
 本人に聞けたらいいんですが、
 緊張して聞けなくて‥‥。』


菖蒲‥‥ってば‥モテモテじゃない‥‥


小柄で顔立ちも綺麗で可愛いのに、
サバサバしてて男っぽいとこも
あるけど、よく告白されてるのも
知っている。


本人に確認を取らずに伝えていいものか
分からないけど、ここで嘘をつくのは
違うと思った。


「杉浦さん、私も本当は本人に
 聞いた方がいい事だと思うけど、
 菖蒲には‥恋人はいます。」


『えっ?‥‥やっぱりそうですよね。
 あんなに素敵な人なので‥‥。』


こんなにカッコイイ子でも、
実らない恋があるんだと目の当たりに
すると、伝えたものの申し訳なくて
切なくなる。


「本当に好きなら想ってるだけなら
 誰にも迷惑はかからないですよ?
 私も何年もそうしてた時期があるし、
 その時間も含めて今があるので。」


『井崎さんはとてもいい方ですね。
 俺‥‥今は仕事を頑張りながら
 自分の事を少しでも知ってもらえる
 ように努力してみます。帰る前に
 呼び止めてすみませんでした。
 ありがとうございます。』

杉浦君‥‥‥