玉響の花霞 弍

電車を使うとこんなにも早く
到着するなんて知らなかったから
ビックリしたけど、筒井さんが
車内で眠ってくれたから良かった‥


『‥‥疲れてないか？』


「それは筒井さんの方ですよ。
　お体は大丈夫ですか？」


『お前は相変わらず人のことを
　心配してばかりだな‥‥』


タクシーの中で指先を握られると
顔が多分真っ赤になった私を見て
また筒井さんが笑っていた。


「うわぁ‥‥」


趣のある雰囲気の日本家屋は、
石畳のエントランスに玉砂利が
敷き詰められ、取り囲む竹林、松などの香りと木々の美しさに目を奪われる。


都会から少し離れただけなのに、
こんな素敵なところをまた知ることが
出来て嬉しくなる。


『日本に帰って来たって感じだろ？
　東京に居ても味わえない日本らしさ
　がここにはあるな‥‥。』


「はい‥‥こんな近くにこんな
　素敵な場所があったんですね‥」


近くの竹林にずっと続く石畳を
後で筒井さんと散歩してみたいな‥‥


『拓巳からの俺への一時帰国祝いと
　お前への誕生日プレゼントらしい。』


えっ！？


筒井さんの一時帰国祝いならまだしも
私の誕生日のお祝いにこんな場所を
プレゼントだなんて、開いた口がほんとに塞がらない‥‥


もう住む世界が違いすぎて本当に
怖い‥‥しかもお返しなんて出来ない
レベルで困ってしまう


見るからに高そうな館内に
チェックインの手続きをしてくださる
筒井さんの背中を見て溜め息が出る


こんな素敵なところに2泊も
泊まれるなんて絶対一生もうないと
思える館内を落ち着きなく見渡して
しまう。


『チェックイン出来るまでまだ時間が
　あるから、近くでランチを食べてから
　拓巳が予約してくれたマッサージに
　行こう。‥‥どうかしたのか？』


「あ‥‥いえ。なんか豪華すぎて
　蓮見さんにお礼が出来なさそうで‥」


立ち上がると筒井さんの手が
頭に触れたのでそっと上を見上げる


楽しみたいけど、プレゼントとして
頂いていいことなのか分からなくなる。


『じゃあ何かお土産でも買ってやれ。
　それでアイツは喜ぶから。』


「そんな事だけでいいんですか？」


『いいさ。気持ちがあればなんでも。
　後で一緒に何か探そう。』


「はい。ありがとうございます。」


筒井さんと近くでランチを
食べると、久しぶりの日本食に
美味いと言って喜んでいた。
　

海外のショートステイの2週間ですら
日本食が恋しかったから、半年以上と
なると相当美味しいんじゃないかな‥


食事の後、
旅館の外の竹林を散歩して
時間を過ごした後、泊まるお部屋に
案内された。