玉響の花霞    弍

「‥‥‥ッ‥治療です」


至近距離で美しく整った筒井さんを
見つめた後、笑顔を向けた。


初めて筒井さんにこうされた時、
驚き過ぎて涙も止まってしまったし、
何故泣いていたかも忘れたのだ


別れを告げた相手にこんなことされて
不快かもしれないけど、頭と心が
こうしたいと勝手に動いてしまった



『フッ‥‥‥ハハッ‥‥参った。』


久しぶりに笑った筒井さんを見れて、
私も一緒に笑った。
こんな顔‥久しぶりに見れて嬉しい‥‥


普通にしていたら出来ない行動かもしれないけれど、勇気を出して向き合うことで誰かが元気になれるならどれだけでも
出そうと思う。



『悪かったな‥‥そろそろ帰るよ。』


「いえ‥‥そう言えば今日はお車で
 見えたんですか?
 近くに停められたなら雪が
 降ってますし、傘を持って行って
 ください。」


玄関先で筒井さんを見送る私の
頭をクシャっと撫でてくれる大きな
手に、今更ながら恥ずかしくなる


『歩いて来たから電車で帰るよ。』


「えっ?電車って‥もう終電ない
 じゃないですか‥‥。」


車で来ているものだと思ったのに、
もしかして車に乗ると、
事故のことが思い出されるとか?


左の肘あたりを無意識に触る
筒井さんに小さく溜め息を吐くと、
左側に立ち筒井さんを見上げた。



『‥何してるんだ?』


「左側がもし怖くなったら、
 私が守ってあげます。なので、
 今日は泊まっていきませんか?
 着替えも何もないので、
 遅いですけどタクシーで24時間
 スーパーに行かないとですが、
 私も一緒に乗りますから。」


流石に筒井さんの家までここから
タクシーを使って往復すると、
料金が高くなる。


せっかく頼ってきてくれたのだから、
筒井さんを1人にしたくなかったのだ


『ほんと‥‥‥頼もしいな。』


トクン


筒井さんの左手が私の右手を取り
手を繋ぐと咄嗟の出来事に顔が
赤くなってしまう


『お前‥‥キスまでしておいて、
 今更赤くなるのか?』


「あ、あれは‥‥‥もうあれは
 忘れてください!!
 ッ‥コート取ってきます。」


クスクス笑う筒井さんから離れると
コートを着て玄関に向かった。