玉響の花霞    弍

聞きたくて仕方なかった声が聞こえ、
目元が熱くなるものの、グッと堪えて
扉をゆっくり開けた


個室の病室には勿論他には
誰もいないことは分かってはいたけど、
ベッドのリクライニングを起こして
そこに横たわる筒井さんと目が合うと
涙が溢れてしまった‥‥


「筒井さ‥‥‥」


痛々しい姿は変わらないけど、
わたしに向けられる優しい表情に
ようやく心が安心してる‥‥


『‥‥約束を破ってすまない。
 お前の事だからずっと待ってた
 だろう?‥‥』


「‥‥筒井さん‥に‥
 会いたかったです‥‥ッ‥」


右手を伸ばして引き寄せられると
力強く抱きしめてくれ、筒井さんの
温もりを感じた


『‥‥俺も‥‥お前のことばかり
 考えてた‥ほら‥‥顔を見せろ。』


右手で私の髪を撫でたあと、
頬を優しく撫でながら、涙を拭う
優しい手つきに、私も左手を重ねる



「筒井さん‥‥おかえりなさい。」


『‥‥ただいま。』



泣きながらなんとか笑顔を作ると、
筒井さんも笑ってくれた。


望んでいた再会の形ではないけれど、
目の前にいる愛しい人の生きている姿に
今はそんなことどうでもいい‥


帰ってきてくれた‥‥
ただそれだけで十分だから‥‥



『お熱いところ悪いけど、
 そろそろ入ってもいいですか?』


入り口にもたれて立つ蓮見さんが、
ニヤニヤしながら私達を見ていたので
ベッドから勢いよく立ち上がった


いつからいたんだろう‥‥
見られていたことに恥ずかしくなり
頬が真っ赤になってしまう。


『着替えとか色々買って持ってきた。
 あと暫く入院になったから、
 会社には俺が連絡しておいた。
 手続きも済んでるから。』


『サンキュ‥助かった。亮は?』


『お前と自分のスマホのデータ保存して
 とりあえず家で休ませてる。
 打撲が酷いからさ‥‥。
 事故の方は亮が警察と保険関係は
 全部やってるから支払いとかは
 一旦保留な。
 パソコンは無事だったからやりとりは
 スマホが来るまでこれでしておけ。』


『俺も衝撃受けた時はもうダメかと
 思ったからこの程度で済んで
 良かったのかもな‥‥
 帰国早々迷惑かけて悪い‥‥。』


筒井さんの言葉にまた涙が
出そうになり慌てて上を向く。


生きていてくれて嬉しいけど、
万が一そうじゃなかった時のことを
考えてしまったのだ。