今日もスマートフォンの画面の向こうには、変わらない世界が広がっている。きっと明日も明後日もそこは変わることは無い。
例えどんなにアップデートされようとも。自分は確かにそう思っていた。
それが違うと気づいたのはいつだろう?
気持ち一つで世界は180度変わってしまうんだと。
あの日、僕は恋に落ちたんだ。
それは本当に突然で。
「ああ、今日も疲れが取れてないな」
蒼はベッドの上で半身を起こすと、うんと伸びをする。昨日は遅くまで会議があった。リラックスするためにスマートフォンことスマホをスピーカーに繋ぎ、好きな音楽を聴いていたことを思い出す。サイドテーブルに目をやれば、昨夜繋げたスマホとスピーカーの有線はまだ繋がったままだ。
蒼はスマホのロックを解除して、音楽の再生に触れる。流れ出す音楽に安堵しつつベッドから降りるとスリッパに足を差し込んだ。
きっと今日も、同じ昨日を繰り返すのだろうと思いながら。
同じ日々を繰り返しても不満を感じない人と、不満を感じる人の違いはなんだろうか。洗面所の鏡を覗き込めば、目の下にクマを発見してゲンナリする。蒼はポンと両手で顔を打って気合を入れようとしたが、痛いだけだった。
キッチンに向かうと冷蔵庫の扉を開ける。ミネラルウォーターのボトルに手を伸ばしながら、背後から聴こえるニュースキャスターの声に耳を傾ければ、最近近隣住民を脅かす【通り魔事件】の記事について読み上げている。
「物騒だ」
蒼は身体を反転させると、グラスにミネラルウォーターを注ぐ。キッチンカウンターからリビングダイニングが一望できる広いマンションは、一人暮らしの蒼には広すぎた。
数か月前までは蒼には婚約がいて、その彼女とここで暮らすつもりでいたが忙しくしているうちに心はすれ違い、気づけば彼女は自分の元を去っていたのである。
引きとめたい気持ちはあったが、「引きとめてどうする?」という気持ちもあった。彼女を自分に繋ぎとめたところで、彼女の不満を何一つ解消できない自分がいるだけだ。
それ以上に自分のこの気持ちが彼女を引きとめたい気持ちが愛によるものなのかわからない。
冷静なもう一人自分が言う。
『それはただの意地やプライドによるものなんじゃないのか?』
その心の声に蒼は純粋に否定をすることが出来なかったのである。結果、そすんなりとこの手を離すことが出来た。
「カッコ悪いな」
蒼はカウンターに寄りかかり、ミネラルウォーターの入ったグラスに口をつける。カッコつけたいわけではないが、カッコよく生きたいと思う。だがそれが容易でないことくらい蒼には分かってた。
どうにも思い通りにならない自分自身にため息を一つ零して出勤の準備に取り掛かる。寝室に戻る頃には余計なことを考えなくなっていた。
早めに家を出るのは日課としていることがあるから。通勤先から一駅という距離に住んでいる蒼は、通勤に電車を利用している。会社は駅から割と近い場所にビルを構えており、電車通勤者には便利な立地と言えた。
蒼はいつもの通りに自社ビル一階のカフェに向かう。
カフェの制服は白のワイシャツに黒のエプロン。そして足首まである長いベージュのスカート。男性ならスラックス。カフェにありがちな珈琲をやカフェオレを想像しやすい配色である。
特にこの時間帯には蒼のお気に入りの店員がいた。
彼女の名は【藤城《ふじしろ》】と言うらしい。その名は知的で美しい印象を持つ彼女に相応しい品のある名だと感じている。とは言え藤城とは親しいわけではなく、蒼が一方的に彼女へ好感を持っているだけに過ぎなかった。
たまに耳に入る藤城と彼女の同僚の話の内容からは、現在彼女には好いた相手がいることが伺える。それだけに、蒼の中で彼女はお気に入りの店員の域を出ることは無かったのだ。
例えどんなにアップデートされようとも。自分は確かにそう思っていた。
それが違うと気づいたのはいつだろう?
気持ち一つで世界は180度変わってしまうんだと。
あの日、僕は恋に落ちたんだ。
それは本当に突然で。
「ああ、今日も疲れが取れてないな」
蒼はベッドの上で半身を起こすと、うんと伸びをする。昨日は遅くまで会議があった。リラックスするためにスマートフォンことスマホをスピーカーに繋ぎ、好きな音楽を聴いていたことを思い出す。サイドテーブルに目をやれば、昨夜繋げたスマホとスピーカーの有線はまだ繋がったままだ。
蒼はスマホのロックを解除して、音楽の再生に触れる。流れ出す音楽に安堵しつつベッドから降りるとスリッパに足を差し込んだ。
きっと今日も、同じ昨日を繰り返すのだろうと思いながら。
同じ日々を繰り返しても不満を感じない人と、不満を感じる人の違いはなんだろうか。洗面所の鏡を覗き込めば、目の下にクマを発見してゲンナリする。蒼はポンと両手で顔を打って気合を入れようとしたが、痛いだけだった。
キッチンに向かうと冷蔵庫の扉を開ける。ミネラルウォーターのボトルに手を伸ばしながら、背後から聴こえるニュースキャスターの声に耳を傾ければ、最近近隣住民を脅かす【通り魔事件】の記事について読み上げている。
「物騒だ」
蒼は身体を反転させると、グラスにミネラルウォーターを注ぐ。キッチンカウンターからリビングダイニングが一望できる広いマンションは、一人暮らしの蒼には広すぎた。
数か月前までは蒼には婚約がいて、その彼女とここで暮らすつもりでいたが忙しくしているうちに心はすれ違い、気づけば彼女は自分の元を去っていたのである。
引きとめたい気持ちはあったが、「引きとめてどうする?」という気持ちもあった。彼女を自分に繋ぎとめたところで、彼女の不満を何一つ解消できない自分がいるだけだ。
それ以上に自分のこの気持ちが彼女を引きとめたい気持ちが愛によるものなのかわからない。
冷静なもう一人自分が言う。
『それはただの意地やプライドによるものなんじゃないのか?』
その心の声に蒼は純粋に否定をすることが出来なかったのである。結果、そすんなりとこの手を離すことが出来た。
「カッコ悪いな」
蒼はカウンターに寄りかかり、ミネラルウォーターの入ったグラスに口をつける。カッコつけたいわけではないが、カッコよく生きたいと思う。だがそれが容易でないことくらい蒼には分かってた。
どうにも思い通りにならない自分自身にため息を一つ零して出勤の準備に取り掛かる。寝室に戻る頃には余計なことを考えなくなっていた。
早めに家を出るのは日課としていることがあるから。通勤先から一駅という距離に住んでいる蒼は、通勤に電車を利用している。会社は駅から割と近い場所にビルを構えており、電車通勤者には便利な立地と言えた。
蒼はいつもの通りに自社ビル一階のカフェに向かう。
カフェの制服は白のワイシャツに黒のエプロン。そして足首まである長いベージュのスカート。男性ならスラックス。カフェにありがちな珈琲をやカフェオレを想像しやすい配色である。
特にこの時間帯には蒼のお気に入りの店員がいた。
彼女の名は【藤城《ふじしろ》】と言うらしい。その名は知的で美しい印象を持つ彼女に相応しい品のある名だと感じている。とは言え藤城とは親しいわけではなく、蒼が一方的に彼女へ好感を持っているだけに過ぎなかった。
たまに耳に入る藤城と彼女の同僚の話の内容からは、現在彼女には好いた相手がいることが伺える。それだけに、蒼の中で彼女はお気に入りの店員の域を出ることは無かったのだ。
