おしゃべりな家庭科室で。

 こうしてわたしは無事に解放され、カラオケ店に寄った。
 ヒトカラだ。
 でも、栗谷くんに拘束されたせいで、あまり時間もない。

「二時間も歌えない……」

 わたしはため息をついて、急いで歌を選んだ。

 でも、嫌なことなんか歌っているといつのまにか吹き飛んでしまう。
 あの様子なら、栗谷くんももう関わってくることはないだろうし。
 これでまたのんびり放課後はカラオケに行ける。
 目標のために、練習しておかなきゃね。

 今日は嫌な目にあったけど。
 もらい事故にあったと思って忘れよう。
 明日から、栗谷くんは完全に隣の席のただのクラスメイトになる。
 絡んでこないほしいけど、放課後に家庭科室で料理を食べさせられるよりマシ。



「昨日は悪かった」

 次の日の朝。
 登校するなり、わたしの席へ来た栗屋くんがそういった。

 てっきり勝手に帰ったことを責められるかと思っていたから驚いた。
 そして、申し訳なさそうにする栗屋くん。

 なにが悪かった、なの?
 そう考えてみると、わたしが栗屋くんの料理に本音をいって、すねたことを思い出す。
 あれかなあ。

「気にしないで。わたしも、もっとやんわり伝えるべきだったから、むしろごめん」

 それからもう面倒だから関わらないでほしい。
 ……とはいえない。

「あっ、ちょっと!」

 その声に振り返ると、麗が立っていた。
 今日もすばらしく美少女! 
 ああ、目の保養になる。
 わたしが心の中で拝んでいると……。

「ちょっと栗屋くん! 朝から楓のこといじめてるの?!」

 麗がそういって栗屋くんをにらみつけた。

「どうしたらそんなふうに見えるんだよ……」
 
 栗屋くんは、呆れたようにいうと、ちらっとわたしを見て続ける。

「おれと紗藤は仲良くなったんだよ」
「えっ?!」

 突然ありもしない話を振られて、わたしは戸惑う。

「本当にぃ?」

 さらに栗屋くんをにらみつける麗。
 ああ、親友の気持ちがありがたい。
 すると栗屋くんは声のトーンを落として、それからこういった。

「ああ。昨日は放課後にふたりきりだったしな」 
「はぁ?!」

 わたしが驚いていると、麗の目がきらーんと輝いた。
 こちらが反論するひまもなく、麗はわたしの両手を握っていう。

「やだもうー! そういうことならいってよー!」
「いや、ちがう、そうじゃなくて……」
「恥ずかしがらなくてもいいんだって! そっかー。そういうことかあ」

 そういってニコニコする麗。

 彼女の頭の中では、わたしと栗屋くんはどう見えているんだろう……。
 考えたくもない。