おしゃべりな家庭科室で。

 そんなこんなで、わたしは今、非常に悩んでいるのだ。
 痩せてスラッとするはずが、モリモリ食べてぽっちゃり街道爆走中。
 はあ、とため息をついたところで、栗屋くんがいう。

「おれ、シェフになりたいんだよな」
「へぇ。いいんじゃないの」
「だろ? いい夢だろ?」
「自己肯定感高いね……」
「でも、シェフになることは家族が反対するんだよな……」
「えっ? なんで?」
「おっと、さて、できた」

 栗屋くんはそういうと、目の前に料理を出した。
 お皿にはチキンソテー、マグカップにはオニオンスープが入っている。

「スープ皿がなかったんだ」

 栗屋くんがそういって苦笑いをする。
 おいしそう。
 だけど、太るからちょっとだけ。
 そう思って、「いただきます」と手を合わせる。
 まずはチキンソテーを一口。

「うん?」

 肉が固い。
 ぱさぱさしてる。
 おまけにしょっぱい。
 うーん、これはちょっと……。

 わたしは首を傾げつつ、スープを飲む。
 こっちは逆に薄い!
 玉ねぎの味しかしない!
 いや、玉ねぎ本来の味は活かされてる。
 でももう少し塩味がほしい。

 栗屋くん、シェフになりたいんだよね……。
 これはちょっと難しいのでは?
 でも、練習したらきっとおいしくなるよ。
 なーんていえないから、適当に美味しいっていっておくか。
 それでもう関わらないようにしよう。
 そう思って口を開いた瞬間。

「なんかその顔、あんまり美味しくなさそうだな」

 栗屋くんが、わたしを見つめてそういった。

「えっ? そ、そんなことないよ!」

 バレてる!
 わたしは必至で、「おいしい!」というけど、栗屋くんは眉間に皺寄せてこっちをじっと見るだけ。
 それから、自分でチキンソテーとオニオンスープを飲んでからいう。

「マズイ!」
「え、マズイってほどじゃないよ」
「やっぱり」

 栗屋くんがぎろりとわたしをにらむ。
 はっ、まずい。
 つい本音が……。

「あ、いや、その……」
「怒らないから正直に、正ー直に本音をいってくれ」
「えぇ。それって怒るフラグだよね」
「怒らないから!」
「顔が怖いんだよー」
「正直にいうまで家庭科室から出さねぇ!」
「それは脅しっていうんだよ?!」

 わたしがそういっても、栗屋くんは真剣な顔をこちらに向けたまま。
 このままでは帰してもらえるどころか、家庭科室から出してもらえない。
 それは嫌だ。
 わたしは勇気をふりしぼっていう。

「えっと、その、鶏肉がその、パサパサしてて、味が、少し濃くて……オニオンスープは、なんか逆に薄くて」
「ってことは、マズイってことじゃん」
「マズイってほどじゃないよ! 微妙だけど!」

 わたしはそういってから、ハッとした。
 やば……。つい本音が出てしまった。
 わたしが口に手を当てると、栗屋くんは大きな大きなため息をついた。

「もういい」

 低い声でいうと、家庭科室を出て行った。

 あら、行っちゃった。
 じゃあ、わたしも帰っていいんだよね。
 そう思って、栗屋くんが戻ってくる前にさっさと家庭科室を出た。