おしゃべりな家庭科室で。

「あれー。売り切れだって、お母さん」

 その声に栗谷くんがハッとして顔を上げる。

 屋台の前にいたのは、きれいな女性と、その女性にそっくりな高校生くらいの女子だった。
 そこはかとなく、ううん、けっこう栗谷くんにも似てる気が……。

「母さん、姉ちゃん……」

 栗谷くんがそういってふたりを見る。
 えっ、栗谷くんのお母さんとお姉さん?!
 わたしは慌てて立ち上がる。
 栗谷くんのお姉さんらしき人がいう。

「あっ。拓人。なに? もう売り切れ?」
「そうなんだ」
「お姉ちゃん、また食べたいっていうから、校舎のほう回ってからまた来たのよ」

 そういったのは、栗谷くんのお母さん(たぶん)

「えっ?! じゃあ、ふたりとも明石焼き、食べた?」

 栗谷くんの言葉に、ふたりは笑顔になる。

「食べたわよ」
「まあね」
「そうか。作るのに必死で気づかなかった……」
「あの行列じゃあしかたないわよね」
「それで……。味は、どうだった?」

「すっごく美味しかったわ。お父さんとの関西旅行を思い出しちゃった」
「わたしも、友だちと行った旅行で食べた明石焼きよりも、ずっと美味しかった」

 栗谷くんのお母さんとお姉さんがそういって、楽しそうにする。
 よかった……。

「そうか。それなら安心した」

 栗谷くんは胸に手を当てて、息を吐いた。

「拓人、お母さん、今までごめんね」
「お母さん、『無理しないなら拓人にシェフになってほしい』って最近いってるんだよ」
「えっ?! 本当に?!」

 栗谷くんの目が輝いた。

「もう、お姉ちゃんってば……。無理しないってことを約束してくれるならね」
「もちろん」

 栗谷くんがそういうと、栗谷くんのお母さんもお姉さんもやさしく微笑んだ

 それから栗谷母娘の視線は、すすす、とわたしのほうへと移動。
 えっ、なにかいわれる?!
 そう思って身構えていると、栗谷くんのお母さんがにっこり笑っていう。

「拓人をよろしくね」
「かわいい彼女できたんだねー。今度、家に遊びにきなよー」

 お姉さんはそういって笑う。

「あっ、いえ、わたしは」

 彼女じゃないです。
 そういうひまもないまま、ふたりは「それじゃあね」と屋台を後にした。

「ごめん。なんか嵐のような母と姉で……」

 栗谷くんが申し訳なさそうにいった。
 嵐のようなところは、栗谷くんもそっくりだよ、とはいえない。
 
「ううん。いいよ。それに、シェフの道、応援してくれてるみたいだし」
「ああ、びっくりした」

 栗谷くんはそういうと、「やった」とガッツポーズをした。

「本当、よかったね」
「ああ。じゃあ、さっきもいったけどお礼しないとな」

 栗谷くんはそういと、半被とエプロンを脱いだ。
 わたしも同じように制服姿になり、栗谷くんの後についていく。