おしゃべりな家庭科室で。

「楓……大丈夫?」

 麗の言葉に、わたしはまっすぐ前を見る。
 息を吸う。

「ごめん。最初からお願い」
「OK」

 スマホから音楽が流れる。

 わたしは目を閉じて歌い始めた。
 食材たちの声に負けないように、大きな声で。

 麗のハモリも最高にうまいし、歌いやすい。
 わたしの歌声を引き立てつつ、歌を盛り上げてくれる。さすが絶対音感の持ち主。
 
 周囲にいた人たちはわたしたちの歌に驚いている様子だった。

「やっぱうまいな」

 そういったのは、栗谷くんの声。
 振り返れば、栗谷くんが親指を上げる。
 キラキラの笑顔。

 わたしは、栗谷くんが好き。
 大好き。

 そうだ、この曲は誰のためでもない。
 栗谷くんに聞かせたい歌だ。
 周囲にいる人たちじゃない。

 大好きな栗谷くんが、シェフになりための手伝いになれるように。
 そして、わたしの秘めた思いが栗谷くんに届くように。

 気持ちよく歌っていたら、曲が終わっていた。
 周囲にいた人は、わたしたちの歌に聞き入っているようだ。

 歌が終わると、「すげぇ!」とか、「最高!」という声と共に、拍手が湧き上がる。
 鳴りやまない拍手。
 わたしと麗は顔を見合わせて笑った。
 ぺこりとふたりそろってお辞儀をする。

「一年一組のたこ焼き屋もとい、明石焼き、買ってくださーい」

 わたしと麗はそういって屋台に戻った。

 最初は不安だったけど。
 歌を聞いてくれた人たちは、一年一組の屋台にやってきて明石焼きを続々と注文してくれた。

 今回、一番大変だったのは栗谷くんだったんだろう。
 わたしも麗も、接客は手伝ったけれど。
 なにせ調理はほぼ栗谷くんだったのだから。