おしゃべりな家庭科室で。

【わたしは、明石焼きになるのねー。うれしいわー。でも明石焼きってなにー♪】
「歌いだした」

 ぽつりとつぶやくと、栗谷くんがいう。

「そうだ! 紗藤、歌めっちゃうまいだろ! 歌えば人が集まる!」
「えぇ……。無理だよ……。こんな不特定多数の前で……」
「動画やるんなら、そのぐらいの度胸がないとダメじゃねえのか?!」
「そうだけど……」
「うまいこと客寄せしたら、いいもんやるから!」
「栗谷くん、なんでそんなにたこ焼き屋に熱心なの?」
「家族が来るかもしれないからだよ!」

 栗谷くんの言葉に、わたしたちは黙り込んだ。
 ネギをものすごい速度で切りながら、栗谷くんが続ける。

「今朝になって、お袋がいったんだ。『文化祭にお姉ちゃんと行くから。楽しみ』って」
「栗谷くは、それでなんて答えたの?」
「うまいもん作って食わせてやるって」
「ええ! もともとは客寄せの担当だったのに……」
「来るとは思ってなかったんだよ……それに」

 栗谷くんは手元に視線を落として続ける。

「正直いうとおれ、逃げてた。家族からもう理解されなくてもいいやって思ってた」
「そんな……そんなの悲しいじゃん」
「うん。おれもそう思ったから、こうして作ろうとしてるんだ」
「じゃあ、作るのは家族の分だけでもいいんじゃないの」

 そう口を挟んだのは麗だった。

「そういうわけにもいかないだろ。それに、おれが作ってる屋台が流行ってるほうが印象良さそうだし」 
「なるほどなあ。確かにそーだよな」

 戸成くんはそういってうなずくと、自分の胸をドンとたたいていう。

「おれ、めっちゃ協力する!」
「ありがとう、戸成!」

 栗谷くんが戸成くんの両手を握る。
 わたしは、力になれるの?
 わたしの歌で本当に、客寄せなんてできるの?
 
「わたしは……」
「よし、やろう!」

 そういったのは、麗だった。

「わたし、楓が歌える曲なら大体、ハモれるし」
「……麗」
「だから、いっしょに歌おう!」

 そういって、麗が手を差し出す。

「うん。歌おう」

 わたしは麗の手をつかんだ。

「ありがとう」と栗谷くんが笑う。
 栗谷くんのために、わたしができることをしよう。
 わたしはそう思って深呼吸。

「おれも歌おうかなあ」
「戸成は卵割ってくれよ!」

 背後でそんなやりとりが聞こえる。

 大丈夫。
 麗がいれば。
 栗谷くんがいれば、ついでに戸成くんもいれば。
 わたしは、ちゃんと歌える。