おしゃべりな家庭科室で。

 どうしよう……。
 ふたりが仲良くしてる姿を見たくない。
 いま逃げたら不自然だ。

「拓人くん、たこ焼きつくってるの?」
「はい。でも、粉がなくなったみたいで」
「えー。それ大変だね。近くのスーパーで買ってこようか?」
「いや、さすがにそんな迷惑はかけられませんよ」

 ちょっと緊張しながらもニコニコする栗谷くん。
 もう耳をふさぎたくなる。
 やっぱりどこかへ避難しよう。
 そう思った瞬間。

「あのー、お姉さんは栗谷くんの彼女さんですか?」

 やけに通る声で聴いたのは、麗だった。
 女性はその言葉に驚いて、目をぱちくりさせる。
 栗谷くんは、驚いて麗を見ている。

「そっ、そんな、まさか!」

 女性はオーバーなくらいに驚き、それからこう続ける。

「わたし、中学生に見えちゃうの?!」
「なんだ、大きな声だして」

 そういって今度は見知らぬ男性が、女性に声をかける。
 女性は興奮したように男性にいう。

「ちょっと聞いてよ! わたし、栗谷くんの彼女に見えるんだって!」
「お姉さんかお母さんの聞き間違いだろう」
「だーって、そういったよ。ねえ、その子のきれいな子」

 女性は麗を見ていった。

「え、あ、はい」
「うふふ。そんな若く見えるのうれしいなあ。でも、わたしにはもう旦那さんがいるの」

 女性はそういうと、男性と手をつなぐ。
 よく見ればふたりの左手にはおそろいの指輪。  
 結婚指輪っぽい。

 え? じゃあ、この女性は……。

「じゃあまたねー! 困ったらお姉さんに頼るんだよー」

 女性はそういい残して、男性とともに去っていった。

 栗谷くんは、くるりとこちらを振り返る。
 はあ、と特大のため息をついてからいう。

「あのなあ、あの人は、おれがお世話になってる人なんだよ。彼女なわけねーだろ」
「えへへ、ごめん。高校生ぐらいに見えちゃった」と麗。
「ああ見えて、あの人――友野(ともの)さんは……おれの母親と年齢が近いんだよ」
「ええ! 見えない! ねー、楓」
「うん。てっきりわたしも彼女かと……」
「んなわけねーよ。人妻なのに」

 栗谷くんの呆れたような声に、わたしは心底ホッとした。

 よかったぁ。
 あの女性は、栗谷くんの彼女でも好きな人でもないんだ!
 本当によかった……。