おしゃべりな家庭科室で。

 自動販売機のある場所は、誰もいなかった。

 この場所は昼間でも暗いから、文化祭の準備をする生徒もいないみたい。
 自動販売機でイチゴミルクのボタンを押す。

「サボんなよ」

 そんな声と共に、栗谷くんが自動販売機と壁の隙間から姿を現した。

「うわああ」
「なんだよ人をおばけみたいに……」
「だって、そんなところに挟まってる人は、おばけか殺人鬼くらいだし」
「なんだその意味不明な決めつけ!」

 栗谷くんはそういうと笑い出した。
 なんだか栗谷くんとこうして、ふたりきりで話すの、久しぶりだな。

 わたしは自動販売機でイチゴミルクを買い終え、すぐそばの企業ロゴ入りの安っぽいベンチに腰掛ける。
 イチゴミルクを飲んでいると、栗谷くんがカフェオレを買っていた。
「二個目?」と聞くと、「そう、二個目」と返ってくる。
「サボりなの?」と聞くと、「そんなとこ」と返ってきた。

 そこでわたしは、なにもいえなくなってしまう。
 なんて話したらいいのかわからない。
 既にネタ切れしてしまった。

 栗谷くんは、ベンチの前に立ったまま、ぼんやりとカフェオレを飲んでいる。
 わたしは隅っこに座っているのに、隣に座ってこない。
 もしかして、嫌がられてるのかな……。

 いや、でも栗谷くんがとなりに座ってきたら、緊張で逃げ出してしまいそうだけど。
 これぐらいの距離感がいいのかも。
 そんなことを思っていると、栗谷くんが口を開いた。

「おれら一組はさ、文化祭はグラウンドで屋台出せるだろ?」
「うん。そうだよね」
「本来は、二年生がグラウンドに出す優先権があるんだって」
「三年生じゃなくて?」
「三年生は受験生だから、参加自由らしい」
「あー、なるほど」
「だからグラウンドに出し物を出せるのは、二年生なんだけど、今年は二年生が演劇やるクラスとお化け屋敷やるクラスがあって、それで一組がグラウンドに入れたらしいよ」
「へーぇ」
「どうでも良さそうな返事だな」
「別にどうでもいいってわけじゃないけど、その」

 わたしは、今も婚活に精を出すセミの鳴き声を聴きながら続ける。

「栗谷くんは、たこ焼き屋でよかったの?」
「なんで?」
「料理、人前でやるの?」
「べつにおれつくらないし」
「でも、つくりたくならないの?」
「なるけど……。でも、つくりたくなってたこ焼き多少、焼いたところで『たこ焼きが焼ける』って思われるだけだろ」
「それもそうか」