おしゃべりな家庭科室で。

 黒板に書かれた文字を見て、わたしは複雑な気分になる。

 来月は文化祭。

 うちの一年一組の出し物は、たこ焼き屋になった。
 栗谷くんがいいだしたわけじゃない。

 お化け屋敷、コスプレカフェ、たこ焼き屋の三つの中で、一番クラスの票が入ったのだ。
 シェフになりたいことを隠している栗谷くんとしては、食べ物屋は避けたいんじゃないだろうか。
 それにしても、栗谷くんはシェフになりたいことを、なんで隠しているんだろう。
 どうして家族が反対するんだろう。

 いろいろと聞きたいけれど、家庭科室に呼ばれない。
 だから聞けないし、話せない。
 寂しい。
 
 次の日から文化祭の準備がはじまった。
 とうとう家庭科室は、大手を振ってつかえなくなった。

 だからわたしはホッとしている。
 栗谷くんに家庭科室に誘われないのは、文化祭のせい。
 そう言い聞かせることができるからだ。

 黙々とたこ焼き屋用の半被をつくっていると、無になれる。
 だけど、ふっと気を抜けば栗谷くんの顔が浮かぶ。

「楓、すごい速度じゃん」

 麗の言葉に自分の机を見ると、できあがった半被が山になっていた。
 いつのまに……。

「ちょっと休憩するね。麗は?」
「わたしはいいや。キラキラの半被にまだ納得いってないし」

 そういった麗の机を見ると、だいぶ派手な半被をつくっていた。

「それ、麗専用?」
「うん。それから派手なの好きな人用」

 集中する麗から離れ、教室を出た。
 そして、渡り廊下の手前にある自動販売機へ。

 あちこちの教室でも、廊下でも、みんな各々の文化祭の準備をしている。
 こういうお祭り前の雰囲気は、嫌いじゃない。