おしゃべりな家庭科室で。

「砂糖たくさん入れたほうがおいしいよね」
「バター多めでもおいしいんだよ」

 わたしと麗は、黒板に書かれたレシピ無視で、好きなように作っていく。
 どうせ作るなら、自分たちの好みをふんだんに取り入れたい。

【ちょ、ちょーっと! わたし、ひと箱つかう気? バカじゃないの?】
【これは甘すぎるどころか砂糖の塊になりそうな予感ー】

 バターと砂糖が文句をいってくる。
 わたしはその言葉を無視。
 こいつらの発言を真に受けていたら、なにもできない。

【ほら、あっちの茶色のエプロンの男の子を見てみなさい。すばらしい手つきよ】

 小麦粉の声に、茶色のエプロンの男子を見る。
 それは栗谷くん。
 いつも家庭科室で見る栗谷くんは、今は女子に囲まれながらクッキーを作っている。
 その手つきは、確かに手馴れていた。

「栗谷くん、料理上手なの?」

 女子にそう聞かれ、栗谷くんは慌てて答える。

「あ、いや、クッキーだけは姉貴の手伝いとかで……」
「へーえ! お姉さんいるんだ!」
「栗谷くんのお姉さんって美人そうだね」

 女子にそんなふうにいわれ、まんざらでもなさそうな栗谷くん。
 なんだか遠い存在のよう。
 いや、もともとも距離なんか縮んでなかったのかもしれないけど。
 ため息をついたところで、麗が何かを取り出した。

「じゃーん。生地はこれでトッピングしよ」

 そこには、袋に入った小さなピンクのハートや小さな星の形の飾りがある。
 お菓子にデコレーションする砂糖の塊みたいなやつ。

「わー、かわいいね」
「でしょ。これでクッキー飾ったらかわいいよ」

 わたしと麗は、クッキーにハートや星をくっつけていく。
 小さな砂糖の飾りたちは、【きゃー】とか、【わー】とかはしゃいでいる。
 なんだか楽しくなってきた。
 お菓子づくりって楽しいかも。


 焼きあがったクッキーは……。
 香りはよかったんだ、香りは。
 見た目も、なんというか、幼稚園の女の子がバレンタインに頑張ってパパに手作りしたみたいな感じで……。

 問題は味だった。
 いや、食感というべきか。

 クッキーを噛もうとした瞬間。
 かこっ、という食べ物からはしてはいけない音がした。
 クッキーが固すぎたのだ。

 これはたぶん陶器ぐらいの強度はありそう。
 歯が無事で良かった。
 そしてようやく少しだけ噛めた部分を食べる。
 砂糖の塊……。
 マズイを通り越して、クッキーじゃないよ、これ。
 麗は笑いながらいった。

「うちら新作作り出したじゃーん。すごい」
「だよね。でも、すっごい硬い」
「恋愛のお守りになりそう。絶対に壊れない関係、みたいな」

 麗はそういうと、「はい」と三つも袋に入れてくれた。
「栗谷くんに渡すといいよ」と笑う麗。

 いや、栗谷くんも食べたくないと思う。