おしゃべりな家庭科室で。

 こうして、わたしのダイエット生活は再スタートを切った。
 文句をいってくる食材たちの声は無視すればいい。
 呪いなんてどうでもいい。
 この状況が既に呪いなんだから。

 ただ問題は、栗屋くんだ。

 栗屋くんの料理を味見していたら、ダイエットができない。
 これはもう味見を断るべきだろうか?
 だけど、協力するっていっちゃったからなあ。
 それとも味見の量を少なくしてもらうべきかな。
 そんなことを考えていたら、あっという間に放課後。

 栗屋くんは、「今日は用事あるから家庭科室来なくていいからな」とわたしに小声でいって、教室を出ていってしまった。
 ホッとしたような、なんかちょっと残念なような。
 無意識のうちにそう思ってハッとする。

 わたし、栗屋くんの料理、楽しみにしてたんだ……。
 どんだけ食いしん坊なのよ。


「楓。お弁当、それだけ?!」

 ある日のお昼休み。
 麗とお弁当を広げたら、彼女に驚かれた。
 わたしのお弁当は、小さめのお弁当箱にレタスとトマトのみ。
 ドレッシングはノンオイル。

「大丈夫。小さめのサラダチキンもあるから」
「いや、全然大丈夫そうじゃないし!」

 麗はそういうと、自分の持っていたサンドイッチを一つこちらに差し出してくる。

「いや、いいっていいって。気持ちだけもらっておくよ」
「でも、心配だし」

 心の底から心配そうな顔をする麗に、わたしは小声でいう。

「これも麗との動画のため」
「えっ? なんで動画とご飯食べないことがつながるの?」
「それは……」

 そこまでいいかけて、やめた。

 最初に、「いっしょに動画しよ」と麗に誘われた時。
 わたしは、「麗みたいにかわいくないし、それに体型も、自信ないし……」といったら、麗に「そんなことない!」といわれた。
 動画のためにダイエットといえば、また麗に気をつかわせてしまう。
 だから、わたしはこういう。

「実は、動画とはまた別で理由がわからないの。なーんか食欲わかないってゆーか、モヤモヤするってゆーか」

 これはうそじゃない。

 ここ一週間ほど、わたしは食欲がわかない。
 ダイエットを意識しているからかな、と思ったけど。
 それだけが理由ではない気がする。

 それからわたしは、ちらりと教室の前方に視線を向けた。
 友だちと楽しそうにお弁当を食べる栗屋くんが見える。