おしゃべりな家庭科室で。

 サーモンたちのしゅんとした言葉を聞くと、わたしは顔を上げて栗屋くんを見る。

「それで、食材のどんな声を聞けばいいの?」

 わたしの言葉に栗屋くんは、ちょっと驚いたように答える。

「ああ、えっと、これがどこ産で、どういう特徴があるのか、分かるか?」
「聞いてたでしょ? あなたたちはどこ産? なにか特徴は?」
【わたしたちはノルウェー産よ】
【ああ。そうだ。そして、おれたちは値下げシールを貼られていた】
【えっ?! ああ、うん。そうそう】
「値下げシールは、本当?」

 わたしはそう聞いてから、「本当?」と声を低くして聞き返す。

【冗談よ。わたしたちは一応、新鮮って体で売られていたわ】
【ちっ、バラすなよ】

 わたしは大きめのほうのサーモン(性格悪いほう)をにらみつけ、それから栗屋くんにいう。

「ノルウェー産で、新鮮だってことで売られてた」
「ああ。正解」

 わたしがホッとすると、栗屋くんは続ける。

「ただ、産地だとか新鮮さなんて適当にいえば当たるからな」
「別に適当にいったわけじゃ……」
「食材の声が聞こえるっていうのを、すんなり信じるほうがおかくしないか?」
「それはそうだけど」
「というわけで、おれはこのサーモンをマリネにするつもりだ。食材はそれでOKなのか?」
【マリネは! マリネはやめてくれ!】
【わたしたちは新鮮っていわれてるけど、そうでもないの!】
【おれたちはそろって、ソテーになるのが一番うまいんだ!】

 サーモンたちがそろって騒ぎ出した。

「ソテーがいいっていってるけど」
「ソテー? ふーん。でも片方はマリネ決定。片方はソテー」

 栗屋くんはそういうと、一切れを手に取り、包丁で切り始める。

【包丁で切るってことはマリネか? やめろおお! おれはマリネは嫌だああ】

 わたしをだましたほうのサーモンの叫び声が家庭科室に響く。
 このマリネ、食べたくないなあ。

【おい! そこの愚かな人間! この状態をなんとかしろ!】

 サーモンはそう怒鳴り散らすけど、わたしにはもうどうにもできない。

「頑張っておいしく食べてあげるから」
【本当だなうそだったら――】

 そこでサーモンの言葉が途切れた。
 マリネにされたことで、彼(?)は料理になったのだ。
 ってゆーか、この状況にだんだん慣れつつある自分が怖い。

 もう一切れは、塩コショウを振られ、バターで焼かれていた。

【やったぁ。わたし、ソテーになれるのね。うれしいわ】

 とても幸せそうな声で、フライパンで焼かれていた。
 やっぱ食欲をなくす光景ではある。

「できた」といって、栗屋くんから出されたのは、二皿。
 一皿はサーモンのマリネ、もう一皿はソテー。