おしゃべりな家庭科室で。

「というわけで。これの声が聞こえるのか」

 次の日の放課後。
 家庭科室に入るなり、テーブルに置かれていたのはお皿。
 その上に乗っているのは、二切れの生のサーモンだった。

 栗屋くんは、テーブルの前でじっとこちらを見ている。
 なるほど。
 食材の声が聞こえるなら、サーモンの声を聞いて教えろ、ということね。

 わたしはお皿に近づいた。
 ふふん、食材の声を聞きたくなくても聞こえるわたしなら、サーモンの声を聞くことなんて朝飯前。
 そう思った時。

 サーモンから声が聞こえた。
 しかし、よく聞き取れない。

 またサーモンが喋った。
 その時、嫌な予感がした。

 だって、サーモンから聞こえたのは、日本語じゃなかったのだ。

 そういえば、サーモンはノルウェー産が多くて、急速冷凍されて日本に届くと何かで聞いたことがある。
 だとすれば、このサーモンは日本語が話せないってこと?

 でも、前にブラジル産の鶏肉が、【食材には言葉の壁はない】とかいってたよね。
 あれ嘘だったのかな。
 わたしが黙りこんでいるのを見て、栗屋くんが口を開く。

「サーモンは、なんていってる?」
「えっ、ええっと……」

 わたしはサーモンをじっと見つめる。
 どうしよう。
 外国語わかんない。
 英語でもないみたいだし(英語だとしてもわかんないけど)
 困っていると、笑い声が聞こえた。
 サーモンからだった。

【ちょっとぉ。困ってるからやめたげてよー】
【ハハッ。だって面白いだろ】

 急にサーモンが日本語をしゃべりだした。
 なに? どういうこと?

【さっきこの男の子がいってたけど、あなた食材の声が聞こえるんですって?】
【本当に聞こえるなら、面白いからからってやるかってことで、外国語しゃべってみた】
【ありもしない外国語しゃべってみたら、いったのわたしだけど、本当にやるとはねー】

 サーモン二切れが、楽しそうにいい合っている。
 からかわれた?
 サーモンに?
 そう考えると、無性に腹が立ってきた。

「なあ、紗藤。本当は声なんて聞こえないんだろ」

 そういう栗屋くんを無視して、わたしはサーモンに向かっていう。

「よくもからかってくれたわね……。わかった」
【なんだよ。怒ったのか? ただのジョークだろ?】
【そうよ。それにわたしたちは別に悪気があったわけじゃないし、わたしは止めたのよ?】
「あんたたちがどう調理されたいか、わたしはそれを栗屋くんに伝えない」
【えっ?】
【そっ、それはやめてくれよ】
「わたしは怒ってるの。冗談で人を困らせて何が楽しいの? 悪気がなければなんでもしていいの?」
 
「なあ、サーモン相手になんで説教してんだよ……」と栗屋くん。
 彼の言葉なんぞ聞こえちゃいないわたしは続ける。

「反省してるなら、わたしにちゃんと協力して」
【……わかったわ】
【わかったよ……】