おしゃべりな家庭科室で。

【キャアアアアア! 助けて! タマオさん! 潰されるうう】

 卵の声が辺りに響く。

「ちょっと! 卵割れちゃう割れちゃう」

 わたしがいうと、栗屋くんは慌てて卵二個をテーブルの上へ。

【タマコちゃん! 大丈夫だった? でも、タマオさんって……ぼくはキミオだよ?】
【なんでもないの。キミオさん】
【タマコちゃん、君はもしかして、ぼくとではなく……】
【わたしとキミオくんなら、とろとろふわふわのオムレツになれるわ。そういう卵だもの】

「食材もオムレツ向きっぽいね」

 わたしがいうと、栗屋くんは、「そうか」といって、フライパンを火にかける。
 なんか卵がドロドロの愛の劇場をしているけど、それは無視。

【ううっ、卵同士、なんていい話なのお! なんだかいい感じに溶けちゃうわあ】

 バターはそういって泣き出す始末。
 あのやりとりのどこに泣ける要素が?

「あれ、バターが柔らかくなってる。気温が高めだからか」

 栗屋くんは、そういってバターをフライパンへ投入。
 ちがうよ、バターがなぜか泣いてるからだよ……。
 自分の意思で溶けることが可能なのか。
 なにこのホラー。
 そんなことを思っていると、栗屋くんが手際よくボウルに卵を割り入れる。

 かき混ぜられる卵液。
 まったく喋らないのが逆に嫌だ。
 あの二人(卵だけど)相当気まずいのでは……。

 フライパンに投入される卵液。
 すると、声が聞こえた。

【最期にいうわね。わたし、本当はタマオさんといっしょに料理になりたかった】

 それが卵の最後の言葉となった。

 ……これ、食べるの?
 わたしが?
 精神的になんか嫌なんだけど。

 わたしが戸惑っていると、栗屋くんが慣れた手つきでフライパンを動かす。
 そして、お皿にはきれいなオムレツができていた。
 ホテルとかの朝食で出てくるやつ!

 さすが作り慣れているというだけあって、見た目は美味しそう。
 香りもすごく良い。
 だけど問題は味だ。