おしゃべりな家庭科室で。

「絶対に麗に勘違いされた……」

 わたしは椅子に浅く座り、何度目かわからないため息をついた。
 ちなみにここは家庭科室。
 昨日と同じく、栗屋くんとわたししかいない。

 本当は昨日でもう関わるのやめようと思ったんだけど。
 放課後になるが早いか、「わたし、先帰るね。じゃねー」と麗はうれしそうに帰って行った。

 完全に麗は、わたしと栗屋くんが付き合っていると勘違いしたのだ。
 最悪な誤解をされている。
 それもこれも栗谷くんのせいだ。

 こんな時こそ歌って発散したいのだけど……。
 お小づかいがピンチなので、カラオケには行けない。
 なので、わたしは行く当てもなく、栗谷くんにいわれるがままに家庭科室について来てしまった。
 ほとんどヤケみたいなもの。

「おれみたいなイケメンと付き合ってると思われたんだから喜べよ」

 栗屋くんはそういうと、念入りに手を洗った。

「自分でイケメンとか……」
「だって、事実だろ? ここでおれが、『おれと付き合ってると勘違いされたなんて、かわいそうに』とかいったら、それこそムカつくないか?」
「どっちもムカつく」
「ちっ、かわいくねーな」

 栗屋くんはそういって舌打ちすると、冷蔵庫から何かを取り出す。
 舌打ちするような人はシェフ向いてないよ……。
 そう思ったけどいわない。面倒だし。

【キャー。外よ、外! 今日こそわたし、使ってもらえるのねー】
【やった! ぼくと君が選ばれたんだよ! いっしょに料理になれるんだ】
【ええ、うれしいわ……】

 途端に食材の声が聞こえてくる。
 栗屋くんが持っているのは、卵二個と、それからバター。

「昨日は張り切り過ぎた。今日は、作り慣れたものを作ろうと思うんだ」
「なに?」
「オムレツ」
「へー」
「今、たかがオムレツって思ったろ?!」
「思ってないけど?!」
「オムレツはなあ、シェフが一番最初に作る、そして難易度が高いといわれる料理なんだよ!」
「そうなんだ……。別にたかがオムレツだなんて思ってないけど」
「そうか。悪い。姉ちゃんは、『オムレツなんて誰でも作れる簡単料理』なんていうから……」

 栗屋くんがそういって、卵を持った手をぐっと握る。