消えそうな君に夜を捧ぐ

『やっぱ、無理か』

あと少しで佐那に届く。

俺の前を走る佐那に必死に腕を伸ばした。

けれど、その指先が佐那に触れることはなかった。

タイムリミット。

突然意識は真っ暗な空間に引き戻された。

俺が1日の23時間を過ごす場所。

ここでの生活にももう慣れてしまった。

暗いだけで孤独ではないし、声も聞こえる。

別にここに不満はない。

けど、ここには佐那はいない。

2週間と少し前までは名前も知らなかったのに。

あの歩道橋で出会うまでは、ただ、たまに見かけるだけだった。

物憂げな顔をして儚げな雰囲気を纏った佐那は見るたびつまらなそうな顔をしていた。

なんとなく気になって、顔が忘れられなくて。